疑念。
梓の言う通り、これだけ俺の思っていた人物像と、グループメッセージでの坂崎さんの人物像には、あまりにも乖離があった。
『黙って言うことを聞けばいい。』だの『学級委員長をやってやってんだから、そのぐらい言う事を聞け』等と、上から目線で命令口調のものが非常に多かった。
ーーーーこれは本当に坂崎さんなのだろうか。
そう疑惑を抱かずにはいられないくらい……。
しかし梓も、俺にわざわざこんなグループメッセージを見せて、一体何をさせたいのだろうか。
ーーーー翌日。
夜は全然寝付けず、俺はベッドの上でただひたすら機械の様に、グループメッセージの履歴を遡って見返していた。
「おはよ〜、どうしたん、元気無いな〜。」
相変わらず間延びした話し方をする木村だが、今の俺には癒やしの声に聞こえてくる。
「なぁ木村。俺達ってまだ入学したばかりだよな?」
「なぁに言ってんだぁ〜?当たり前だろ〜!?」
木村はそう言うとアハアハ笑いながら、俺の背中をバンバン叩いてくる。
ーーーーそうだよな、まだ入学したばかりなんだよな……先が思いやられるな……。
俺は高校一年生にして、すでに高校三年生になった様な、一人で達観した様な気分になってしまっていた。
ーーーーいかん、いかん!こんな事でどうする!
俺が一人で悩んでいると、案の定同じクラスの妹、澪が話しかけてきた。
「兄さん一体どうしたんですか?今朝の登校時も、なんだか様子がおかしかったですし……。」
「い、いや何でもないんだ。ちょっと考え事をしててさ……。」
澪も他の人たちから比べたら鋭い方なんだが、梓ほどではない為、なんとか気付かれずに済んだ。
しかし一番問題なのは、隣の席の坂崎さんだ。嘘であって欲しいとは思うが、あのグループメッセージの内容を見るに、表と裏の顔がはっきり分かれているようだ。
しかし疑問だ。なぜ皆はグループメッセージを抜けようとしないんだ? これだけ女帝化しているのなら、いっその事抜けてしまった方が楽な気もするんだが……。
そんな事を考えながら過ごしていると、事件が起きた。
「兄さん、すみません。家の事で話し忘れた事があります。」
休み時間、澪がツカツカッと俺の元にやって来たかと思うと、急に俺の手を掴み、廊下に引っ張られてきた。
「な、何だよ。話があるなら別に席でも良かっただろ。」
『兄さん、どうやってグループメッセージに入ったのですか!?』
澪が小声で、俺にグループメッセージの事を話しかけてくる。
「うーん、入ったっていうか、招待された?みたいな。」
正直、そこらへんの詳しい経緯はよく分からない。気が付いたら招待されていたのだから。
「招待……?誰か分からないのですか?」
「すまん、あまりそういうのは興味が無くて……よく分からないんだ。」
「そうですか……。」
「で、何だよ。話って。」
「あ、いえ、その事を聞きたかっただけです。あのグループメッセージの存在を知っているのは、クラスの中でも数人ですから。」
この様子だと、昨日の梓との話は耳に入ってない様だな。俺と澪は、なるべく坂崎さんに悟られない様に教室に戻って行った。




