そろそろ返して。
「さっきはどうも、妹ちゃん。おかげで樹山君と仲良くなれたし、母親と妹にも紹介出来たわ!」
言わなくてもいいのに、何でそんな挑発的な言い方をするの、栗山さんは!
「それはそれは。彼女でもないのにわざわざ母親と妹に紹介するなんて、よっぽど友達がいないんですねぇ。」
梓も梓で、何でそんなに攻撃的な発言ばかりするんだ!どうして二人共、もっと仲良くなれないんだ!?
「私、あなたよりは友達がいると思いますけど?」
栗山さんは栗山さんで、負けず嫌いみたいな様で、負けじと梓に反論する。
ジリジリと焼ける様な熱い視線を向け合う二人。
まだ新学期が始まったばかり。これから楽しい事がたくさん待っている!と期待に胸を膨らませていた自分をぶん殴りたい。
「なぁ梓よ。俺と栗山さんは特に何もなかったぞ。 ただ単に、本当に栗山さんのお母さんと妹さんに俺の紹介をして、簡単に世間話をしただけだ。」
俺は一生懸命に梓を説得するが、梓が首を縦に振る事はなかった。
「お兄ちゃんは何もわかってないよ。女の子が自分の部屋にわざわざ招待するのは、大体が『下心アリで、自分がその招待した人の事を好きな場合』だよ。」
暑さのその言葉に栗山さんの顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。
「つまり栗山さんは、栗山さんの部屋のベッドの上で、一線を越えたかったっていう事なんだよ。 だけどお母さんの妹ちゃんが帰ってきちゃったから、タイミングを失っちゃったって事だね!」
いやいや梓、さすがに話が飛躍しすぎてぶっ飛んでるよ。
まだ付き合ってもいない俺達が、一線を超えるなんて事はありえない。
「ほら一気に黙り込んじゃった。それが何よりの証拠だよ。……私が中学二年生だからってナメないでよね。お兄ちゃんの事は私の方がよく知ってるんだから、そろそろ返してくれない?」
その梓の言葉に、ついに栗山さんが重たい口を開いた。
「樹山君はモノなんかじゃない!返すとか返さないとかそんな言葉で言い表せられる訳ないでしょ!?」
栗山さんの言葉に、流石の梓もたじろぐ。
「どうしたんだい、みぃちゃん。随分と荒れているようだけど……。」
俺がよく買い物に行くコロッケのおばあちゃんが、騒ぎを聞きつけて出てきた。
「い、いや、何ていうか……。自分から言うのも変な話なんだけど……俺の取り合いをしているみたいで。でも俺の話は一向に聞かないって言うか……。」
ん?みぃちゃん? そういえば俺は昔から近所のおばあちゃん達から、みぃちゃんって呼ばれていたような気がするな……。
「まぁ、この商店街もさびれてるから、少しぐらい騒がしい方がちょうどいいんだけどね! モテる男は困るねぇ!」
そう言いながらおばあちゃんはコロッケの中に戻っていった。
「そんなんじゃねぇから!」
そういえば前に見たLIMEのグループメッセージ……確か『ミィ様』って……。
ーーーーはは、まさか……な。




