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家族。

「ただいまー。疲れたーーー。」

 俺は帰ってくるなり、階段を駆け上がり自分の部屋に入るとカバンを放り投げ、ネクタイを緩め解くとワイシャツと共に床に放る。


「お兄ちゃん、物を投げない!」

 どこからともなく、聞き慣れた声が聞こえてくる。


ーーーーこ、この声は!


「こら、梓!俺もいつも言ってるだろ!勝手に部屋に入って……ベッドに潜り込むなと!」

 俺は自分のベッドをめくり上げると、そこにくの字になって寝転がっている妹の『あずさ』の手を引き、引っ張り上げる。


「もう、強引だなぁ……。でも、そんな強引なお兄ちゃんも……好き!」

 俺にベッドから引き剥がされた梓は、ポッと顔を赤らめてくる。 『妹』と言ったが、勿論『澪』が『梓』に変身した訳ではない。


 実は俺の妹は二人いるのだ。しかも二人共、義理の妹である。

 下の妹の梓は中学二年生で、姉の澪と同じくブラコンを拗らせており、しかも姉と同様に美少女である。茶髪の地毛をサイドテールにまとめていて、身長は155センチと平均的。

 姉に似て小顔であるものの、童顔である為にもっと年下に見られる事もあるらしい。


 だがこの次女は姉の澪同様に難アリで、先述の通り、絶賛ブラコン拗らせ中で、義兄である俺のベッドに潜り込んでいる程である。

「もしかして、梓……お前。」


「え、いや、その……。あの……ごめんなさい。」

 梓は深々と頭を下げてくるが、その理由は一つ。実は梓は俺の布団に潜り込み、匂いを嗅いで色々するのが日課になっている。

 まぁ、色々というのは……色々だ。


「ま、まぁ…………いいけど、俺が帰って来たら止めてくれよ……?」

 疲れていた俺は半ば諦め気味に梓にそう言うと、自分の部屋に設置されているソファーに腰掛ける。


「お姉ちゃんも帰ってきてるの?」


「あぁ、多分自分の部屋にいると思うぞ。」


「甘い!甘すぎ、お兄ちゃん!黒糖並みに甘いよ!」

 よくわからない例えを出しながら、梓は姉の澪の行動はお見通しとばかりにズンズン歩くと、俺の部屋のドアを思い切り開けた。

「キャッ…………!」

 ドアが開いた瞬間、澪が体勢を崩して転がり込んでくる。


「ほらね、私の言った通りでしょ、お兄ちゃん?」

 梓は倒れ込んだ澪を冷徹な目で睨みつけると、俺にほれ見た事かと言わんばかりに見つめてきた。


ーーーーそう、この姉妹は仲がめちゃくちゃ悪い。


 俺の母親は小さな頃に亡くなり、それからは父が育ててきてくれた。そんな父親も、素敵な相手を見つけて来て、結婚してその娘が今の姉妹である。

 初めこそ、お互いによそよそしい感じだったが、今では極度のブラコン姉妹になってしまっているのだった。


「お姉ちゃん、私とお兄ちゃんの話を盗み聞きしてたんだよね?」


「…………………ッ!」

 妹の問い詰めに、澪は唇を噛み締めて悔しそうな顔をしている。


「え、何でそんな事をする必要があるんだよ。」

 俺には、わざわざ聞き耳を立てなければならない様な会話をしていないのだから、盗み聞きをする必要がどこにあるのか全く分からなかった。

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