義妹は許さない。
「え、あ、いつからそこに!?」
「何だ、コレ辺りから。」
「ほぼほぼ最初からじゃねぇか!ならさっさと入ってこいよ!」
俺は自室の前に突っ立っていた梓に、ビックリして腰を抜かしてしまいそうになったが、何とか耐えてツッコミを入れる。
わざわざ部屋に入って来ず、人の話を盗み聞きするなんて趣味の悪い奴だ……。
「それよりもお兄ちゃん、さっきも言ったけど、栗山さん家に行くなんてありえないから。」
「な、何でだよ……いいだろ、別に。俺が誰の家に行ったって。ってか、栗山さんの家に行くとまでは言ってないだろ!?」
俺は必死に否定するが、否定しながらも多少なりともそんな事を頭の片隅に想像し、期待してしまっている自分がいる。
何故ならば、女子の家に入るなんて初めての事だから、ついつい邪な考えが入ってきてしまうのだ。
「そうやって言いながらどこかで期待してるから、マジでキモいんですけど!」
梓から初めて『キモい』なんて言われてしまった。今まで絶対にそんな事いう妹じゃなかったのに……。
「梓!兄さんにキモいなんて、何て言い方してるのよ!謝りなさい!」
落ち込む俺を押し退けながら、澪が梓を平手打ちすると、梓に一喝する。
「お兄ちゃん取られちゃうくらいなら………嫌われてもいいから、ここにいて欲しいだけだもん……。」
梓はそう言い残し、トボトボと自分の部屋に戻って行った。
「梓…………。」
今まで梓が吐かなかった暴言に、俺も澪も困惑していた。
「兄さん。取り敢えず、今日は栗山さんとの予定の取り直しですし、この場は私に任せて行ってきて下さい。」
澪もまた、普段なら絶対に言わない言葉を俺に掛け、俺を送り出す。
「わ、わかった。行ってきます。」
俺は澪にそう言うと、そそくさと家を飛び出した。
まだ高校生になったばっかりで日も浅く、これからどんどんと友達を作っていこうというこの時期に、早速前途多難なスタートを切ることになってしまった。
桜の花びらが舞う遊歩道を、俺は一人ゆったりと歩きながら考え事をしていた。
梓はなぜあんなにも栗山さんと会う事を拒んだのだろうか。なぜ今まで一言も言ったことがない暴言を吐いたのだろうか。
あの場は澪が収めてくれると言っていたが、正直今まであんな梓を見たことがない。
俺は一抹の不安を拭い去ることはできなかった。
「お〜い、樹山君!やっと来た!遅いから迎えに行こうとしてたよ!」
純白のワンピースに麦わら帽子、シンプルな白いヒール姿の栗山さんに見惚れながらも、俺は栗山さんの元へと走って向かう。
「栗山さん、いつもと雰囲気違って可愛いですね!」
いつもはどちらかと言うと、ダラッとしたヤンキーな感じだから、こういう清楚な感じで来られるとギャップでやられてしまいそうになる。
「そ、そうかな。ありがと!もし、樹山君がいつもみたいなの嫌いって言うなら、これからはシャキッとするから!」
ニシシッと真っ白な歯を見せながら無邪気に笑う彼女に、俺も自然と笑みが溢れていた。




