澪と梓。
「うぅ〜ん……。いつの間にか、寝ちまってたのか……。」
俺は、気だるい体をなんとかベッドから起こそうと手を伸ばす。
ーーーーふにゅっ。
何やら柔らかい感触が俺の手に伝わる。ベッドの感触にしては柔らかい……と、手を動かしてみる。
ーーーームニュムニュ。
「何だ、コレ。」
眠くてまだボヤケていた目を擦り、なんとか焦点を合わせると、俺は手のひらの先を一点に見つめた。
ーーーーこれは……!?
「ふぁっ……。おはようございます、兄さん……。」
同じく眠たそうな眼を擦りながら、澪がベッドから起き上がってくる。
ま、まさか……じゃなくて、確実に俺は触っていた!
「……随分と堪能していたみたいですね、兄さん。おかげで目が覚めました。」
「……………そうか。てか、堪能はしてない……。」
いやいや、そこは嫌がれよ。と、ツッコミを入れたくなるが、自分に非がある為ハッキリとは言えない。
「今日は日曜日なんですから、もっとゆっくりでも構いませんのに……。」
「いや、昨日栗山さんと会う約束が無くなってしまったから、今日改めて話して会おうかなと考えてて。」
俺のその言葉に反応したのか、澪はあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべている。
とりあえずそのままにしておいても実害はなさそうなので、澪はほったらかしにしておいて、スマホを取り出し、栗山さんに電話をかける。
『もしもし、樹山君から電話してくるなんて、珍しいね!』
俺の電話にすぐに出てくれた栗山さんは、明るそうな声で俺に語りかけてくる。
「昨日はごめんね。本当は栗山さんとのお話だったのに無かった事になっちゃって……。
」
『まだそんなこと気にしてたの?あっはははは!真面目だね、樹山君は! 私なんて、告白の事もすぐに忘れちゃったよ〜!』
ケラケラと笑う彼女に、少しホッとした俺は、勢いそのままに昨日の埋め合わせを今日したい旨を伝え、快諾を得る事が出来た。
『本当に律儀だな〜、樹山君は。じゃあ、また後でね〜!』
電話を切り、ふぅっと一息つくと、俺はふと顔を上げた瞬間、恐ろしい光景を目の当たりにした。
ーーーー澪が凄まじい形相で俺を睨んでいたのだった。実害が無いなんてとんでもない……むしろ実害しかないと言ったほうが正解だろう……。
俺はササッと着替えを済ますと、澪とは目を合わせずに部屋から飛び出す。
「いってきま…………す?」
扉を開けた俺の前にいたのは、梓だった。
「お兄ちゃん、栗山さんと会うなんて何ふざけた事考えてるの?」




