こ、こんなはずでは……。
俺は今、リビングにて正座をさせられている。理由は考えるまでもなく、すぐに理解出来た。
「兄さん、私は確かにメールに『兄さん、全力でやって来て下さい!』と送りました。それは私自身も『しまった!』と思い、すぐにメールを送り直しました。 しかし、時すでに遅し……兄さんは大活躍致しました。」
「じゃあ、お兄ちゃんが正座させられてるの、おかしくない?」
いいぞ、梓! そう、兄がかっこ良く活躍して何が悪い!そう言ってやってくれ!
俺は澪の怒りの言葉に反論する梓を応援していた。(心の中で)
「考えてもみなさい、梓。体力テストで兄さんがカッコよく大活躍をする。すると女子達はどうなると思う? 『ちょっと測定値が良かったからって自慢しまくる男子達より、クールに決めて何も自慢したりしない樹山君の方がカッコいい!』って、なるはずよ。」
俺を庇っていた梓に歩み寄り、まさに今日起きていた出来事を、さも間近で見ていたかの様にリアルに話す澪。
ーーーーそれを聞いて、しばらくの沈黙の後。
「お兄ちゃん、やっぱり正座ね。」
何と、梓からも見放されてしまった。俺は自分の力を出しただけだというのに……。
「お兄ちゃん、中学生の時に陰でモテてたの知らないよね?」
「え、俺がモテてた? いや、それは何かの間違いだろ。」
「やっぱりね、知らなくて当然だとは思うけど……。」
「兄さんは中学時代凄く人気があり、狙っていた女子生徒達も多かったですよ。」
澪は珍しく梓と同じ意見を述べた。いつもは言い争ってばかりの姉妹だが、何故か今回は二人揃って俺の過去について語り始めたのだ。
「お兄ちゃんは超が付くほど鈍感だから、全然気付いていなかったと思うけど、私達が一年生の時に『めちゃくちゃカッコいい先輩が三年生にいるから見に行こう!』って友達から言われて、どんな奴かと思って見に行ったら、お兄ちゃんだったんだから!」
梓の言う様に俺が三年生の時に、一時期廊下のあたりがザワザワしていた事もあったけど、まさか自分だとは夢にも思わない。
「まさかあのザワつきの元が俺だなんて、思うはずがないだろ!?」
「だからお兄ちゃんの事を超が付くほど鈍感だって言ってんでしょ、鈍感!!」
珍しく梓が激怒している……火に油を注ぐ様な事はしないでおこう……。
ここは黙って凌ぐのだ、それが最善の策!
「兄さんの事ですから、何で私達が怒っているのか、それすら理解していないのではないですか?」
澪め、痛い所を突いてくる………。だが、確かにその通り、イマイチ俺には何故、澪達がそんなにも怒っているのか原因がわからないのだった……。




