登校初日で!?
先述したが、妹はめちゃくちゃ可愛い。義兄の俺から見ても、とにかくめちゃくちゃ、凄まじく可愛い。
『兄さんて誰だよ!?』とか『羨ましすぎる』とかザワザワしている中、澪の元へ歩かなければならないのだ。
どう考えてもバッドエンド。地獄絵図である。男子生徒達からの冷ややかな視線と共に、浴びせられる罵声。
「おいコラ、樹山!何お前がしゃしゃり出てんの!? テメェみたいな陰キャ野郎はすっこんでろよ!」
まだ俺はロクに罵声を浴びせてきた男の名前を覚えていないのに、ソイツは俺の名前を呼び、罵ってくる。
わざわざ陰キャである俺の名前を覚えてくれてありがとう!と言いたいが、そんな状況じゃない。
「は、はは………ごめん、でも……んぐ!?」
そう言いかけた俺の口を澪が手で塞いでくる。なんで美少女は手までいい香りなの。
「どなたか存じ上げませんが、というか興味がありませんが、私の大切な兄さんに何という失礼な物言い。貴方がどれだけ優れているのか知りませんが、人を貶す様な言葉を放つ人間が、兄さんに勝っているはずがありません!」
澪は鋭い目つきでその男を睨みつけると、凄まじい勢いで喝を入れる。男はぐうの音も出ないのか、大人しくなってしまった。
ーーーー。
「兄さん、先程は大変申し訳ありませんでした!兄さんが貶されているのを見たらつい……。」
帰り道、商店街を歩いていると、それまで後ろについて歩いていた澪が俺の前に回り込み、深々と頭を下げて謝罪してきた。
さっきの教室の件だろうが、澪がわざわざ謝る事でもない。
「澪は謝らなくていいよ。ハッキリ言わなかった自分が悪いんだし、正直スカッとしたよ!」
入学早々、あんな珍事件を起こしておきながら、この先どうなるのかと少し不安もあるが、澪がズバッと言ってくれたおかげで溜飲が下がった。
しかし、澪も登校初日であんな目立つ様な事をして、これから先大丈夫なんだろうかと少々不安はある。
そんな時だった。商店街の中程でいきなり声を掛けてくる人物がいた。勿論、俺にではなく、澪にだ。
「樹山さん、樹山澪さん!」
声を掛けてきた人物は、赤色のネクタイをした同じ学校の男子生徒。
先にも述べたが、この学校ではネクタイだけは新調式で、学年によってネクタイの色が違う。
一年生はネクタイの色が赤色、二年生は緑色、三年生は青色だ。
ーーーー赤色だから俺達と同じ学年って事になるな。
中学生の時には見たことない顔だから、高校生になってから会った事になる訳か。
「はい、何ですか?」
妹は呼び止めてきた男子生徒の事は全く知らないようだ。というか、単純に興味が無いだけなのかも知れないが。
「ぼ、僕はあなたの事が大好きです!つ、付き合って下さい!」
出会って初日に告白するとか、どんだけ勇者何だよ……。と、関心すらしていると、澪は告白してきた男子生徒に、凄まじく冷徹な眼差しを向ける。
「私、貴方の名前すら知らないんですけど?」
相変わらずの塩対応っぷりに、男子生徒はたじろぎ、半歩後退る。
「ぼ、僕の名前は……!」
言いかけた男子生徒を手で制した澪は、一言。
「あ、別に知りたく無いです。そのつもりで言った訳ではありませんので。」
そう言い残し、抜け殻になった男子生徒を置き去りにすると、俺の元に戻って来る澪。
「さ、用件は終わったみたいですので帰りましょうか、兄さん!」
何事もなかったかのように、ケロッと元の明るい表情に戻る澪だった。