体力テスト。
「………っていう訳なんです、何とか助けてもらえませんか!?」
俺は澪と一緒に保健室に駆け込むと、保健室の先生に事情を説明して、体力テストの間だけでも保健室に休ませておいてもらえないかと相談を持ちかけたのだ。
「そうか……。そういう事なら致し方あるまい。ここで休んでいるといい。」
保健室の先生は30代程の若い女性の方で、とてもサバサバした性格でとっつきやすかった。
「先生、兄さん。本当にありがとうございます!」
俺は分かるが、先生に対しても丁寧に頭を下げる澪を見て、少しばかりホッとしている自分がいた。
「兄さん?おぉ、じゃあ君は彼氏さんではなく、お兄さんだったのかい!」
どうやら保健室の先生は、俺と澪が恋人関係にあり、それで困った彼氏である俺が、保健室に駆け込んで来たのだと勘違いしたそうだ。
「兄さん、やっぱり私達は恋人同士に見えるんですよ!良かったですね!」
「いやいや、兄妹なんだから恋人同士にはなれたとしても、結婚までは出来ないぞ?」
うっとりとした目つきの澪を見ながら、保健室の先生は、まさに保健の先生らしく、澪と俺の関係をたしなめてくる。
「大丈夫です!私と兄さんの血は繋がっておりませんので!」
堂々とした口調の澪を見て、妙に納得した保健の先生は大きく頷きながら
「なら問題無いな!しかし、こんなに身近に義理の兄妹がいようとは……!」
保健の先生は、どこかうっとりとしたような目つきで俺と澪を見つめてくる。
「じゃ、じゃあ俺はそろそろ行くよ!」
澪を一人、このちょっと怪しげな保健の先生に頼んでしまってもいいものかどうか悩んだが、俺自身も体力テストの時間が差し迫ってきているので、とりあえずは任せる事にした。
「お〜、樹山。妹ちゃん、体調は大丈夫そうか〜〜? お前、昼飯ほとんど食べてないのにもう体力テストの時間になるぞ〜〜。 着替えた方が良くないか?」
「もし何だったら、俺と木村の方から先生に事情を話して、ちょっと遅れてもいいか聞いてきてやろうか?」
安永の提案はありがたかったが、さっきのハラハラもあってかお腹はもうほとんど空いてなかったから、気持ちだけ受け取っておいた。
「ありがとう、でも大丈夫だから。着替えるからちょっと待ってて!」
俺が制服から体操着に着替えをしていると、バックの中からメールの着信音が鳴り響く。
『兄さん、全力でやって来て下さい!』
それは澪からのメールだった。なんの変哲も無いただのメールかもしれない。
でも、それでも俺は澪の分も真剣に体力テストに臨もうと考えていた。




