独占欲。
俺は食事を終えた後、早々に風呂に入る事にした。風呂の準備はいつも夕食前に澪が済ませてくれている。
風呂の順番も何故か俺が一番先で、その次は澪と梓が日替わり交代で二番目に入る事になっている。
以前、『そんなに、交代してまで二番目に入るのが嫌なら、俺が最後でもいいんだ』と主張した事もあったが、俺の主張は虚しくも退けられた。
「ふぅ〜〜、あったけぇ〜!」
俺は風呂が好きだ。もっと広く言うなら、温泉が好きだ! あの癒やしの空間……温かい温泉に浸かりながら、一人旅の疲れを癒やす……。
いや、一人旅とかはした事無いから分からないけど……。
ーーーーいや、そんな事よりも今は坂崎さんとの過去の事だ。
俺が憶えていないだけで、本当は坂崎さんと過去に出会っているって事だよな。しかも、彼女にとってはそれが結構重要だった様に思える。
そんな事を考えながら体を洗っていると……。
ーーーーガチャッ!
大きな音を立てて、風呂のドアが開いた。咄嗟の出来事に俺がビックリしていると、水着姿の梓が風呂に入ってくる。
「うわあぁぁぁ!? あ、梓!何入って来てんの!?」
「ん、何ビックリしてんの?お兄ちゃんの背中を流しに来たんだよ?」
梓はケロッとしている。そりゃ、自分は水着姿だから何とも思わないだろうけど、俺は裸なんだからたまったもんじゃない。
ーーーーん、水着……水着姿……?
ち、ちょっと待て! 何だその派手な際どい水着はぁ!!
梓が着ていた水着は純白の上下別の水着で、フリルが付いている。上はそうでもないが、下の布面積が非常に少ない。
「ん?どうしたの、お兄ちゃん?もしかしてぇ、私の水着姿見て興奮しちゃった〜?」
俺の慌てる姿を見て楽しんでいるのか、梓はクスッと笑いながら挑発してくる。
義理ではあるが、梓は俺の妹!こんな事でいちいち反応してたら、からかいの絶好の的になってしまう!
俺は必死に平静を装い、タオルで前を隠しながら体を流す。
「なぁんだ、せっかくのイチャイチャイベント『せっかくだから、身体洗ってあげるね!』やろうとしてたのに……残念。」
いやいや、何だよそのイベントは……。まぁ確かによく恋愛漫画なんかであるようなハプニングだが、実際に起きたら大事故だ!いや、まさに今起きてるのか!?
「ねぇ、お兄ちゃん。私が中学生だから眼中に無いのかな。それともお姉ちゃん狙い?」
「い、いきなり何を言い出すんだ、梓!?」
「お兄ちゃん、私の気持ちに気付いてるよね? 何でそんなにいつも素っ気ないの?私、そんなに魅力無いかな……。」
梓はそう言いながら、ガクリと肩を落として落ち込んでしまう。
「そんな訳無いだろ!? 梓はとっても明るくて元気で可愛いぞ! そこが梓の魅力じゃないか!」
「でも、大人っぽい女性の方がお兄ちゃんは好みだよね? 私みたいな幼児体型は、お兄ちゃんのタイプからはかけ離れてるよね……。」
梓は今にも消えて無くなってしまいそうな、小さな声でそう言うと、俺の背中にコツンッと頭を預けてきた。
「私ね、お兄ちゃんがお義兄ちゃんで本当に良かったなって、そう思ってるんだよ?」
梓は昔から元気で素直で、可愛い義妹だった。でも、何が原因か解らないが、今日の梓には全く元気が無かった……。




