もしかしたら!
「遅かったね……お兄ちゃん、お姉ちゃん。」
俺と澪はリビングルームに正座させられている。目の前には鬼の形相をした梓が立っている。
「今日は授業が早く終わって、14時には帰れるからって聞いていたんだけど。だから私もまっすぐ帰ってきて、晩御飯の仕込みをする為に食材を待っていたら……二人共、全然帰ってこないじゃない!!」
梓はめちゃくちゃ怒っていた。そりゃそうだ。梓だって学校で話したい子とかいただろうに、料理の仕込みの為にわざわざ早く帰ってきてくれていたんだ。
なのにいざ帰って来たら、俺達は食材の買い出しにも行っていないんだから……。
「で、何で遅れて帰ってきたの?返答次第では…………分かってるよね、二人共。」
梓の凄まじく恐ろしい眼光を前にして平然でいられる訳も無く、俺は今日の出来事を話していた。
「…………………。」
俺の話を聞いた梓は何か考え事をしている様で、しばらくの間黙りこくっていた。
そんな様子に、俺も澪もお互いの顔を見合わせると、澪が口を開く。
「梓、もしかして坂崎さんの事、知ってるの?」
「うーん、もしかしたらって感じなんだけど……。私達、小さな頃に坂崎さんと会ってるかもしれないんだよね……。」
「え!? で、でも坂崎さんはそんな素振り見せなかったけど……。 兄さんだけには昔の出来事の事を聞いていたから、私達姉妹には会ってないけど、兄さんには会った事がある人物って事になるわよね。」
「そっか、じゃああの子は違うのかぁ……。」
梓には何やら思い当たる節があった様だが、どうやら条件が重ならないらしい。
「今回の事は分かったけど、お兄ちゃんは優しすぎるんだよ?だからそうやって他の女達がホイホイ寄って来ちゃうんだよ?」
そう言って梓はどさくさに紛れて俺の足に自分の脚を絡めてくる。
「はーい、ジャマジャマ〜! 変態女はすっ込んでて。兄さんが穢れてしまうからやめてくれない?」
澪がすぐさま俺に絡み付いていた梓を引き剥がす。
「はぁ!?変態はお姉ちゃんの方でしょ!?私が知らないとでも思ってんの? お兄ちゃん、お姉ちゃんはね、よくお兄ちゃんが寝ている時に、お兄ちゃんのほっぺにキスしたり、パジャマの匂い嗅いだり、お兄ちゃんが出掛けてる時なんて、机の角……んむぐぅ!!?」
聞かなかった事にしよう。取り敢えずは姉妹仲が悪い事だけは再認識出来た。
とにかく、俺は姉妹の話からすると、どうも安請け合いをしがちだという事らしい。それは自分にとっても相手にとっても良くない事だ。
ーーーー俺の後ろでは姉妹がギャーギャー喧嘩をしていたが、俺はどうもその昔の出来事が何なのか引っ掛かって仕方が無かった。




