昔の出来事。
「兄さん、何か思い出しましたか。」
「い、いや……ごめん……。坂崎さん、昔に俺と坂崎さんの間に何があったのか、全然思い出せないんだ。」
俺はここで嘘をついてもしょうがないので、正直に覚えていない事を坂崎さんに伝えた。
「そうだよね……小学生くらいの時の話だし、仕方無いよね。ごめんなさい、変な空気にさせてしまって……。」
坂崎さんはそう言うと頭を下げて謝罪してくる。
「いいよ、そんな事で頭下げなくても……。むしろ、覚えていない俺が悪いんだから……。」
俺がそう口にした直後、バッグの中のスマホがピリリッとけたたましく鳴り響く。
「もしもし、梓か。どうした?」
『どうした?じゃないわよ! お兄ちゃん、一体いつになったら学校から帰ってくるの!? まさか女と出掛けてる、とかじゃ無いわよね!?』
電話の相手は、俺がなかなか帰ってこない事に痺れを切らした妹の梓からだった。
「いや、まだ学校だ。ちょっとやる事があって遅れて帰るよ。」
『はぁ!?お兄ちゃん、どうせ委員会には所属したりしてないんでしょ?だったら遅れて帰ってくる意味が分からないんだけど!?』
梓は何故か俺が何も委員に所属していない事を知っていた。
いや、もうむしろ今となってはそんな事は些細な事だ。それよりも梓が怒っている方が問題がある!
「い、今何時だ!?」
俺はふと我に返り教室の時計を見ると、時計は既に午後4時を指していた。
「兄さん……今日までは14時下校で、帰りに晩御飯の買い出しを梓から頼まれていませんでしたか……?」
ーーーーすっかり忘れてた!!
「あ、あの……私は大丈夫ですので、買い出しに行って下さい!」
俺は自分から手伝うとか言っておきながら、中途半端に手を出して引っ掻き回した挙げ句、途中で抜けてしまうという鬼畜の所業……。
「坂崎さん、ごめん!また今度埋め合わせはするから!」
坂崎さんに謝って教室を後にすると、すぐに梓に買い出しに行く旨を伝えて、商店街へと猛ダッシュした。
「兄さん、入学早々慌ただしいですね!中学生の時もそうでしたが、人助けの前に自分がやらなければならない事も忘れないで下さいね!」
「説教なら帰ったら聞く! とにかく今は、一刻も早く買い出しに行かないと!」
俺と澪がこれだけ慌てるのには理由がある。それは、いつも夕食を作ってくれているのは梓だからだ。
俺達は全く料理が出来ないという訳ではないが、得意な方ではない。そこで家事分担をしているのだ。
「それにしても……坂崎さんの昔の出来事って一体なんだったんだ?」
俺はそれがずっと頭の片隅にこびり付いて離れなかった。




