クリスマスに成立しようとしてるカップルを邪魔する
今年のクリスマスって普通に外出とかするんですかね?
クリスマス。聖夜とか言われる、男と女がなんかイチャイチャしたりする日。もしくは一人、いつもと変わらず部屋でゲームをする日。まあ、そんな日である。
その日、みんないなくなった教室に二つの影があった。
「影宮隊員、目標の予定はつかめたか?」
「はっ、目標はクリスマスに昼間はショッピングデート、そのまま夕飯を高級レストランで食べてイルミネーションデートに行くようであります」
「何!?ショッピングに高級レストランにイルミネーションだと!?まるで発想力がない非リアがその日に聞いたものを適当に詰め込んだみたいなデートプランだな」
「まあ、そんなことは置いといて、どうするの?」
そう問われると隊長、神崎は悪そうな笑みを浮かべた。
「決まってるだろ?恋に障害はつきもの、邪魔するんだ」
当日 08:00
ここは恋人たちがよく待ち合わせ場所にする、なんかよくわからない像の前。
その場所が見える位置に怪しげな2つの影。
「朝九時に集合って早くね?あいつら」
「まあ、そんなもんじゃないの?それよりちゃんと遅刻するかしらね?」
当然のことながら影宮と神崎である。
「安心しろ。星沢のバイト先の店長は知り合いだからな。相談して昨日は12時間の超重労働のシフトを入れてやった。その前日にも10時間入れてやったし。バイト先の先輩とかにも話したら以外と快く協力してくれたんだよな」
「いやえげつな。私なら嫌になっちゃうわ」
「そっちこそちゃんと深夜まで一緒にゲームしてたんだろ?」
「ええ、友達にも協力してもらって深夜三時まで起こしといたわ。さすがにそこが限界だったけど」
「上出来だ。もし仮に遅刻しなくても今日一日耐えられるかな?」
「「ふふふふふ」」
08:30
「あっ、中島さんが来たわね」
「そうだな。30分前に来るとかあいつも律儀だな」
「星沢はいつ来るかしらね?」
「まあ、普通に5分前とかに来るんじゃね?疲れさせたといっても遅刻はしないだろうし」
「そうね。じゃあ、作戦2を始めましょうか」
「そうするか。もしもし、探偵さん?今、星沢はどんな感じですか?」
『今ちょうど電車に乗り込んだあたりですね。あとに20分もあれば着くと思います』
「ありがとうございます。引き続き尾行お願いします。では、聞いた通りだ。みんな、予定通りよろしく」
「「「おう」」」
08:47
「早く来すぎちゃったな。星沢君まだかな」
中島が一人で待っていると、チャラそうな3人組が寄ってきた。
「あれ、お嬢さん、ひとり?」
「なっ、なんですか?」
「いやだから、一人かって聞いてるの」
「えっ、一人ですけど…」
「じゃあ、これから俺らとお茶しに行かない?」
「そうそう、この先においしいお店、知ってるんだ」
「俺らがおごるからさ」
「い、いえ、人を待ってるんで」
「なに?待ち合わせ?彼氏?」
「はいそうです…」
「いいじゃん、彼氏なんてほっといて俺たちと遊ぼうぜ?一日だけだからさ。な?」
「いえ、約束なので」
「そんなのほっとけって。俺たちと行こうぜ」
男は手を伸ばすと中島の腕をつかんだ。
「や、やめてください。離してください」
「だから、俺らのほうがたのし…」
「離してやれ」
「「「は?」」」「え…?」
「聞こえなかったのか?嫌がってるだろう、離してやれ」
「いや、お兄さん誰?いきなり話しかけられても迷惑なんですけど」
「それは君たちも同じだろう?彼女に話しかけて、彼女は迷惑してる」
「ちっ、うるさいんですよ。どっか行ってください」
「ナンパをやめる気はないんだな?」
「だから、どっか行って……」
「ふん!」
「えっ」
ドサッ
男がチャラそうな男の腕をつかみ、ひねると男は一回転して倒れた。
「いてっ」
「「大丈夫か!鈴木!」」
「て、てめぇ、いきなり人を投げつけやがって。訴えてやるぞ」
「そんなことをして困るのはどっちかね?行き過ぎたナンパは罪になるんだよ?君は彼女の腕をつかんだね?それは場合によっては暴行罪や強制わいせつ罪に問われるよ?そこのところ分かってる?」
「うっ、い、行くぞ。お前ら」
「「お、おう」」
チャラ男3人組は負け台詞を吐くと走ってどこかへ行ってしまった。
「大丈夫かい?お嬢さん」
「あ、ありがとうございます」
「いいよ。困ってる人は助ける。当然だろ?あっ、自分はこういうものなんだ。何かあったら相談してね」
差し出された名刺を受け取ると、中島の目は驚愕に開かれた。
「弁護士さんだったんですか。はい、ありがとうございます」
「それじゃあね」
「ありがとうございました」
「何よ、あのイケメン。これじゃあ、花宮にナンパを止めさせるっていう作戦2が台無しじゃない」
「そうだな。まあ、作戦は他にもある。そっちを頑張るか」
「そうね。そうしましょう」
08:55
「おまたせー」
「あっ、星沢君」
「中島さん!まった?」
「ううん。私も今来たとこだよ?」
「嘘つけ」
「嘘ね」
「そうなんだ。じゃっ、いこっか」
「うん!」
二人は洋服店に入っていった。当然、そのあとに二つの影も続いて行った。
「じゃあ、作戦3と行きましょうか」
「そうだな、店員さんお願いします」
「はい、頑張らせていただきます」
作戦3、男なら女の荷物はすべて持つべし、という信条の元作られたシンプルにこれからのデートが大変になる作戦。正直、デートの最初に洋服とかかさばりそうなの買うのってどうなんだろうか。私その辺の経験ないからわからん。
閑話休題。
「どのようなお洋服をお探しでしょうか」
「あっ、彼女に会いそうなものを」
「かしこまりました。では、これなんてどうでしょう?今シーズンの流行で……」
「星沢、たくさん買うかしらね」
「その辺は考えたから安心しろって。この辺の店に先にお金払っといたからなんだかんだお得だとか、クリスマスサービスだとか言って、一つでも買えばいくつもセットで出すように依頼しといたから。配達もしっかりとできないって言い張ってくれってお願いしたから」
「いや…え?そんなことしたの?どこからそのお金出てくるのよ…」
「この服とかどうですか?彼女さんの雰囲気によく似合っていると思いますよ」
「そうですねぇ…」
「しかもこの服を買っていただけたらこちらの次シーズンの服も一式お付けしますよ」
「そうですね。これにします」
「お買い上げありがとうございます。こちらで着ていかれますか?」
「どうする?せっかくなら着てきたら?」
「星沢君がそういうならそうするね。ちょっと待ってて」
「じゃあ、会計お願いします。あ、サービスの服は家に送ってください」
「8,980円になります。それと当店では配送は受け付けておりません。申し訳ありません」
「え…?でもこの前はでき」
「受け付けておりません」
「あ、はい」
「ごり押しじゃない」
「ごり押しだな」
「大丈夫かしらね」
「大丈夫じゃね?」
「こちらが商品になります。ご利用ありがとうございました」
「結局星沢が商品を持つみたいね」
「ああ。まあ、この後はお昼まで特に新しい作戦はないから俺らも買い物するか」
「そうね」
13:00
「いやー、いっぱい買い物したわ。ほら、男なんだからあなたが持って頂戴」
「いや、お前だって男だろう…」
「あら、私は心は乙女なのよ。はい、もって」
「うっ…重い…」
「星沢君、そろそろお昼にしようか」
「そうだね、何食べる?」
「うーん…あっ!しゃぶ葉とかでいいんじゃない?」
「じゃあ、そうしようか」
しゃぶ葉。大麻とかの隠語ではなく、おそらくしゃぶしゃぶのしゃぶからとったであろう店名。しゃぶしゃぶの食べ放題が売りであり、ドリンクバーがある。つまり、席に誰もいない時間がある可能性がある。
「作戦4。シンプルに薬をもって午後をつらくしよう」
「うん、改めて考えてもやってること頭おかしいわね。ていうか犯罪じゃない?」
「うん、普通に傷害罪だね。でもこの世界は法律とか働かないからね。仕方ないね」
「えぇ…。あっ、二人がお店に入っていったわね」
「俺たちも入るか」
「じゃあ、このセット二つとドリンクバーで」
「かしこまりました。ドリンクバーはあちらにございますので任意でご使用ください」
「どうやら注文が終わったようね。それで何の薬を盛るの?」
「媚薬」
「え?」
「媚薬」
「媚薬ってあの媚薬?」
「そう、あの媚薬。といっても調べた感じというか調べてもよくわからなかったんだけど、効果があるかはよくわからん。まあ、あったら面白いかなくらいかな」
「えぇ…。てかその薬を何に入れるのよ。飲み物のコップとかドリンクバーに持ってちゃうじゃない」
「あ!そうじゃん!ミスった…」
「考えてなかったのね…」
「仕方ないからしゃぶしゃぶする奴に入れるか。薄まるだろうから全部入れていいかな?」
「味変わらない?まぁいいや。丁度二人も席を立つみたいだし入れてくれば?」
「おう、入れてくる」
神崎は席を立つとそれはもうささっと動いて二人の席の鍋に薬を放り込んだ。その動きはまるで冷蔵庫の裏にいるあいつのように。
「じゃ、ここでやることも終わったし俺らも食べようぜ」
「そうしましょうか。いただきます」
14:00
「どう?効果ありそう?」
「うーん?さすがになさそうじゃないか?」
「というか、どれくらい入れたの?」
「だしと1:1になるくらい?」
「えー…。毎度のことながらやってる規模が頭おかしいわね」
「無味無臭の無色透明だからばれてないでしょう」
「なぜ変なところでちゃんとしてるのか…」
「…ーー」
「あれ?中島さん?どうかした?」
「な、なんでもないよ?」
「そう?少し顔赤いけど…。少し休もうか?」
「じゃあ、そうしようかな」
私、どうしちゃったんだろう。さっきからなぜか体が熱い気がする。
「本当に大丈夫か?俺、水買ってくるよ」
「そう?じゃあ、お願い」
「つらそうじゃない。本当に大丈夫なの?」
「やばいかもしれん。星沢も自販機通り過ぎてどっか行ったし」
「どうするのよ」
「とりあえず、様子を見よう」
「ゴメン、お待たせ。これお水」
「ありがとう」
「……手、つないでいいかな」
「え…うん、いいよ」
「なんかいい感じになったわね」
「そうだな。予定通りだ」
「嘘つけ」
18:00
「結局、あの後もイチャイチャしただけだったじゃない。邪魔するという目標はどこ行ったのよ」
「うーん、なんか二人の間を縮めただけになったな」
「この後は高級レストらだっけ?さすがに中に入れてもらえないだろうから帰る?」
「何言ってんだ?ちゃんと俺らの分も予約してあるぞ」
「うん、そんな気がしてた。あなたの財力ならしてるだろうって」
「じゃあ、行くか」
「そうね」
「で、何するの?私これからの作戦聞いてないんだけど」
「とりあえず、店員の人には話を通しておいたから何でもできるぞ。俺らと星沢、中島以外さくらだし」
「うん、ちょっと予想を超えてきたわね。この人たち全員雇った人なの!?」
「そうだよ。で、作戦は別に考えてないから何かあったら言って」
「そうは言ってもねぇ。高級レストランで邪魔しなくてもいいんじゃない?」
「そうか?俺は邪魔するぜ?」
「えぇ…。私の意見とは。で、何するの?」
「実は星沢がここの人たちにフラッシュモブを頼んでるんだよ」
「フラッシュモブってあの周りの人たちが躍ってくってやつ?」
「そう、それ。だから全然違う音楽と周りの人たちの動きをしてやろうかと」
「えー。頑張ってプロポーズしようとしてるのに」
♪~♪~~
「あれ?音楽が流れだしたね」
「そうだね」
あれ?なんか依頼してた音楽と違くない?
「い、一体何だろうね」
「星沢、動揺してるじゃない」
「ふっふっふ。じゃあ、俺たちも踊りに行くか」
「え!?私まったく踊れないんだけど」
「なんかいい感じのタイミングでいい感じに踊れば大丈夫だよ。ほら、この仮面でもつけて」
「なんか周りの人が踊りだしたね」
「そうだね」
やばい。聞いてた振り付けと全然違う。仕方ないなんか適当に合わせて踊ってやる!いくぞ!
♪~♪~~
すごいわね、星沢。なんだかんだちゃんと合わせられてるじゃない。
むしろ私のほうがひどいわね。ていうか一番ひどいの踊ろうって言った神崎あなたじゃない。何がしたかったのやら。
「中島さん!付き合ってください!」
「あ…、お願いします」
パチパチパチパチ
「結局プロポーズ成功したわね」
「そうだな。あー、疲れた」
「あなた本当に何がしたいのよ」
19:59
「よかった、間に合った」
「そんなに急いでどうしたの」
「ちょっとまってて。…3、2、1」
「…わぁ、きれい」
「それはよかった。それじゃあ、ちょっと歩こうか」
「今日はありがとうね。私なんかのために」
「いや、そんなことないよ。俺も中島さんとデートできてたのしかったし」
「星沢君と付き合ったらこんな楽しいことをいっぱいしてくれるのかな」
「おう!俺が常に楽しませてやるぜ」
「ふふ、期待してる」
「いやー、邪魔とかしたけど結局いい感じになっちゃったわね」
「そうだな。結局他人じゃ愛し合った二人の恋は引き裂けないってことだな」
「何かっこつけてんのよ」
「それっじゃあ俺は行くわ」
「あれ?これから予定あるの?」
「当然だろ?これから彼女とデートだ」
「は?」
「それじゃあな、影宮!メリークリスマス!」
「……何なのよ、あいつ!!」