ファンタジー世界の人口問題 その2
今回は、都市を維持するための水と食料のお話。
運輸なども考えた方が良いかと。
江戸時代の後期は、その人口は100万人に達していたという話である。
そのあたりの情報から、最近のファンタジー世界の都市人口は妙に多く設定されているように思う。
まあ、最近のファンタジー世界は中世ヨーロッパ風を歌っていながら、むしろ近世よりのように感じている。
諸説あるが日本で言えば戦国時代以降を近世と位置づけるのが一般的なようであり、日本人作家が作る中世風に近世風の匂いが強くなるのはやむを得ないのかもしれない。
さて、江戸であるが、江戸時代初期(大坂の陣前)の人口は15万人程度、同時期の京が30-40万人、大坂(大阪)が20万人程度であったようである。
それでも江戸は沼沢地や浅瀬を埋め立てて開発されたため、場所によっては井戸を掘っても塩水しか出ず、かなり時間をかけて各種用水路を整備している。
京都はもともと地下水が豊富な地で、その地下は器のようになっていて、周囲の山の水が溜まっているという話がある。京都が長く首都であったのは、人口を賄うだけの水を得やすいというのもあったのかもしれない。
豊臣氏が滅びる前の大坂は、まだ海面を埋め立てるところまではいっていないので、井戸が普通に掘れたのであろうと考える。海水面の埋め立ても同時に行う必要があった江戸よりは、居住条件はよかったのかもしれない。
横浜は開港すると人口が増え、水不足に悩まされたという。現在の横浜は、山梨県の道志川から水を引いている。そのためか、横浜市と道志村は関係が深く、道志村の村営温泉の利用料は横浜市民のみ道志村民と同額でよいというサービスをしているのを目撃した。
軍港として開発の進んだ横須賀も大きな水源がなく(市内では走水くらいである。明治時代のレンガ造りの施設が残っているので興味がある方は訪ねてみるとよかろう)、相模川、中津川、遠くは酒匂川からも取水している。
ようは、大都市を稼働させるためには、大規模な水源が欠かせないということである。
降雨量が多く天水が豊富な日本ですら大都市の水には困っているわけであるから、ヨーロッパ風の世界での困難さはその比ではないはずだ。
ローマ時代の水道橋のようなものをあまり見かけないのは、生活用水についてあまり気にしていないのではないだろうか。
まあ、そこはファンタジーであり、気軽に水が得られる魔法やアイテムでもあれば、その限りではなかったりするのであるが。
水と並んで必要なのは食料であろう。
周辺で生産するか、運び込んでくるか。
江戸や大坂は、海を使って運び込み、水路を使って分配していたようである。
京都は大阪湾からは淀川をさかのぼり宇治川に川港を作って物資を受け入れており、日本海側からは陸路と琵琶湖水運を使って運び込んでいた。なお、日本海から琵琶湖までを結ぶ巨大運河の計画があったという。完成していたら、琵琶湖北部はだいぶ違う光景になっていたのではないだろうか。
何にせよ、大都市を運営するには水運が欠かせない。
特に川や水路については、もう少し描写があっても良いのではないかと思う。
水運だけではなく物資の調達と集積についても考える必要がある。
大坂は言わずとしれた天下の台所であり、西国各藩の米が集まっている。京都は淀川・宇治川水系で大坂から運び込んでいた。
江戸は特に仙台からの米で潤っていたという。
江戸時代に入ると各大名家の家臣は、自分の土地からの収穫ではなく藩から支給される俸禄で生活するいわばサラリーマンになっているところがほとんどであった。ところが、仙台伊達藩は家臣に土地所有をさせ開墾を推奨させたという。開梱すれば自分の家の収入が増えるということで、家臣の各家が新田開発にはげみ、江戸を支える米どころになったという話である。
俸禄制による大名一強の支配体制の確立が大名家の強さを高めるという織田方式が全国を席巻する中で、逆張りをした伊達政宗は、やはり面白い男だと思うのである。
あなたが作る世界の大都市には、それを支える穀倉地帯がありますか?
そして生産された食料を運ぶ方法はありますか?
そのあたりが設定されているとリアリティが増すのではないかと思います。
そう言えば、ロードス島戦記でエンシェントドラゴンのシューティングスターが退治されたのは、彼のお食事処を穀倉地帯にするというカシュー王の都合によるものだったはず。
みなの食欲の前に倒されたと思うと、シューティングスターが哀れに思えてきたものである。