一本向かいの通りの六人姉妹/次女の場合
5分程度の短編です。
前作を読んでいると、ふーん。となると思いますので、そちらもよろしければ是非。
まぁ、ぺろりと読んでゲッと吐き出していただければ。
突然だが、あなたは恋愛シミュレーションゲームをやったことがあるだろうか。
わたしはある。
大まかな内容は似通っていて、まず主人公は髪の毛の色が現実にはあり得ないような女子とボーイミーツガールする。
そして最終的にハメてハッピーエンド。ドンドンパフパフちんちんパコパコというわけだ。
もちろん。
そのハメハメタイムが過程となる変わり種もあるし、何もかもがハッピーにパコって終わりというわけでもない。それはそうであろう。世の中には「かわいそうなのじゃ抜けない」という紳士諸君から、「かわいそうじゃなきゃ抜けない」という紳士諸君まで幅広い紳士が息づいている。
大体、二十歳をとうに過ぎたいい大人が、女子高生と恋愛する男子高校生に感情移入とか、字面だけ見れば気持ち悪いことこの上ない。正直なところ、引く。
だがしかし、わたしはそんな紳士諸兄らを下に見こそすれ、否定はしない。
なぜならば、わたしもまた、通常とは異なる性嗜好でもってエロゲに傾倒していた時期があったからだ。
とある地方都市、D市某所の郊外にある、少し大きめの一軒家。
その家の三階の角部屋に陣取るわたしこと睦月 楓は、いつものように、今日も大口径レンズカメラを明け方から構えていたりする。理由はただひとつ。たった一つのシンプルな答えである。
「さぁ...今日こそ拝んで見せましょう実夕先輩...!そのジャージに隠れたぷにぷにぼでーをな...!」
そのレンズは星を愛でるためでなく、そのカメラは好いた女子の裸を切り取り愛でるため。
きっかけは些細なことだった。
当時の私は、睦月家の六人姉妹としてそれなりに地元で名の通ったやんちゃ娘。
次女の私はふらふらと出歩いては公園でこてんと寝こけ、一晩家に帰らない姉、怜を探しては姉に群がる浮浪者不良に不逞の輩をバッタバッタとなぎ倒し、気づけば町内でちょっと名の知られたスケ番みたいになっていた。
しかし。
そもそも、自身よりはるかに強い男どもを蹴散らせたのは、姉を助けるために振り絞った火事場の馬鹿力あってのこと。当然、そんな事情の絡まない私闘であれば、細腕のわたしが勝てるべくもなく。
以前のした連中にあわや強姦されそうになった時、近くを通りかかったジャージ女が瞬きする間もなく男どもを一掃。彼女は自身の赤ジャージとダウンジャケットを貸してくれ、タクシーを呼んで運賃も持たせてくれたのだった。
それからである。
彼女は誰であったのか、何ゆえに彼女はあのときあのような人気のない場所に通りがかったのか、どうしてわたしを助けてくれたのか。
そして何より、震えるばかりで何も言えなかったわたしにそっと上着をかけてくれた貴女に、ちゃんとお礼が言いたい。
その思いを胸に八方手を尽くしたが、どうしても彼女は見つからなかった。
興信所にも依頼してみたものの、いかんせん情報が断片的に過ぎたのだろう。それらしい人が4人ほどピックアップされたものの、どれも違う人だった。
落胆を胸に、帰途についたわたしは、しかしそこで天啓を得る。
あれは、近隣の私立高校の試験日ではなかったか。
そうだ、パニックと恐怖と安堵でないまぜの感情が頭から押し流していたが、ジャージとダウンを脱いだ彼女は確かにセーラー服を着ていた...気がする。
確証はなかった。
そもそも、仮に受験生であったとして、失礼な話だが彼女が受かっているという保証はない。
あるいは、ここは滑り止めで別に本命の学校があるのではないか?
懸念は山ほどあったが、姉の「あぁ、ジャージの子ね。うんうん。確かにいた気がする」というぼんやりした言の下、件の高校の入学式に張りこんでみたのだ。
ちなみに、張り込んだといっても、姉の怜がこの高校に入学するので、付き添いの家族として引っ付いていっただけなのだが。こればかりは役得だった。
しかして、彼女はそこに現れた。
いや、しかし入学式から芋ジャーを羽織るセンスよ。しかも誰も注意しない。影が薄いのかもしれないな、などと不届きなことを考えながら見ていると、彼女がふっとこちらを振り返った。
そのまま歩み寄ってくるものだから、完全に先手を取られたわたしはわたわたしながら姉の背中に隠れてしまう。
「かえで、お礼。言うんでしょ?」
うるさい。ふだんぽけっとしてるくせにこういう時だけ姉面するな。
わちゃわちゃした攻防の末、ついに引きずり出されたわたしはひとまずお礼を言うことにした。
「あ、あのっ!あの時は、その、助けてくれて、ありがとうございました!!」
緊張でがちがちの顔だったろうに、彼女はそんなわたしを見てあの時見せた微笑のまま
「助けるなんて、私はそんな...ごめんね、大したことしてあげられなくて。あの時のお金、アレで足りた?」
なんて返すのだ。イケメンが過ぎると、正直思った。
「いえ、とんでもないです。むしろお金は余りました...これ、おつりとお礼の気持ちです」
差し出した封筒をみて、彼女は少し驚いた風だった。けれど、受け取ることはせずに
「いいよ、気持ちも十分受け取ったし、お金は取っておいてくれると嬉しい。平気な風でも、まだ男の人怖いでしょ?美味しいものでも食べて、ちょっとでも気が紛れてくれるなら...うん。私は、そっちの方がうれしいな」
もうこの辺で落ちた感はある。実際、わたしはあれから未だに男性が怖い。父でさえ、ふとした瞬間に「男」を感じると、食べたものを戻してしまう。
もしかすると、彼女もまたわたしと同じような被害を受けたことがあったのかもしれない...。
そう思うと、自分に向けられているこの微笑が、たまらなく愛おしく思えたのだった。
そうして過ぎること一年。
入学式から一転、姉と同じ高校、つまりはわたしを助けてくれたイケメンジャージ女こと、久石 実夕先輩と同じ尼崎高校に入るため、猛勉強を重ねたわたしは、見事同高校の合格を勝ち取ったのだった。
そんな過酷な受験勉強の日々を支えたのもまた、ほかならぬ瞬獄殺、久石せんぱいその人であった。
そう、なんの幸運か、彼女は私の家から窓を通して部屋が丸見えな立地の下宿先を借りてくれたのである。当然ながら、これはわたしの欲望や久石せんぱいのわたしへの個人的な情が絡んだ結果ではない。
しばらく観察していて気づいたのだが、彼女は地元から尼崎へ進学するにあたって、彼女の幼馴染と連れ立ってきたようなのだ。役立たずな興信所の調べによれば、彼女ら三人の下宿する三軒長屋は、真ん中に住む柳葉 憂の親戚が大家を務めており、格安で家賃を融通してくれているらしい。
言われて初めて気が付いたのだが、柳葉建設といえば日本において指折りのシェアを持つ大手企業。その分家筋は日本中に根を張っているとの噂である。
なるほど合点がいったとその時は手を打ったものだが、まぁそれはいい。
重要なのはただ一点。
私 の 家 か ら 久 石 せ ん ぱ い の 着 替 え が 覗 け る!!!
この一点こそが、私の受験勉強を強烈に支えてくれたのだった。
そうして過ごした毎日の中、彼女の裸を断片的ながら撮影することに成功したわたし。
その写真を手にしたとき、脳髄から溢れる未知の感覚に突き動かされるまま、手が秘所へと伸び──。
まぁ、この後わたしがどうしたか、という点については読者諸兄の豊かなご見識の下、ご想像にお任せしたい。
何はともあれ、その日を境に私は彼女を恋愛の対象としてその存在を了解した。
同性であることなど問題にもならない。わたしは、彼女に恋をしている。
それを自覚したからこそ、私は人生で初めて、彼女がプレイする美少女物のエロゲーをプレイし、高校入学式の前日、親の反対を押し切って髪の毛を真っ赤に染めたのだ。彼女がくれた、真っ赤なジャージになぞらえて。
私は、ヒロインじゃないかもしれない。がさつで、あらっぽくて、かわいくない。
けれど、わたしは久石せんぱいが好きなのだ。
であれば、この好意は全身全霊をもって伝えるべきだろう。カタチから入って何が悪い。
新学期まであともうちょっと。待っててね、久石せんぱい。
あの女装男から、今度は私が守ってあげなきゃ。
別に私が百合を特別愛好しているわけではないんですよ。
私自身の嗜好というなら、まぁ獣が絡まなければたいがいのモノを美味しく頂ける大変丈夫な胃をしていましてですね。
まぁどうでもいい話はこの辺で。
どうでしたでしょうか。
タイトルからわかるとおり、これは短編のシリーズものです。
しかしシリーズ一発目が次女から始まるのは、単に私が2という数字が好きだからなので、深く意味を考えないでいただきたい。
前作、と前書きに書きましたが、それは「夢レズ女は女装男に恋をした」という半分落書き的な短編なので、こちらもよろしければご賞味ください。
それでは、最後になりますが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
またのご愛顧を、よろしくお願いいたします。