タピオカミルクティー狩り
じっと息をひそめ続けてもうだいぶ経つだろう。
今回は無駄足か?と少しずつ諦めの思いも沸いてきたまさにそのとき
生い茂る木々の隙間から何かが飛び出してきた。
「あれは!? タピオカミルクティーの群れだ!!! 狩れーー!!!」
「おいおまえらもう並ばなくてすむぞ! やったな!!」
男たちの声が響く中、次々とタピオカミルクティーが狩られていった。
予想以上の大猟にホッと胸をなでおろす。
私は今、タピオカミルクティー狩りにサイタマの奥地に来ている。
私には妹がいる。それはそれは馬鹿な妹だ。
昨日もタピオカミルクティーを購入するのに1時間ほど並んだのだと言ってきた。
それはもう自慢げに言ってきた。
差し当たり、良き兄たる私は、そんな馬鹿な時間の使い方をしなくて良いようにと
タピオカミルクティー狩りにと繰り出したのだ。
とは言ったものの、私に狩りの経験は無い。
独学でやってもよかったのだが、万全を期すために師匠を付けることにした。
ケンさんである。
ケンさんは67歳独身の男性で、この手の狩りを初めて10年以上にもなるベテランだ。
弟子も私以外にもたくさん抱えている。
他の弟子たちにケンさんのことを尋ねると揃ってこう言うものだ。
「訛りが強すぎて何言ってんのかわかんねえ!」
私は第二言語にズーズー弁を選択していて本当に良かったと思った。
やはり勉学には真剣に取り組むべきである。
「 だぴおか はもうごんなドゴでキリさ付けるべきだぁな」
慣れた様子で弟子たちに指示を出しながらケンさんが呟いた。
「それは……どういう意味ですか?」
私は思わず尋ねた。
「あんまりドり続けてっどダメになるんよぉ。
づぎはぁ、そうだなぁ。なたでここ かぁ、てらみす ってとこだぁな!
まあ しょうずき 何がくんのかわっがんねぇけんどもぉ、その辺アタリ付けて準備せんといがんねぇ」
「次に何が来るか予想が付くんですか?! 流石はベテランだ!」
ちょっと大げさに驚いて見せた。
弟子の務めである。
「や、そんな持ち上げんどいでぇ!
知識とかそんなたいしたもんでもねぇしぃ、全然新しいもんかもしんねぇよ?」
顔を赤くして照れてみせるケンさん。
念のためもう一度言っておくが独身である。
添い遂げれば食いっぱぐれる事もないだろう。
弟子の務めである。
結局今回の狩りには5時間を要し、大量のタピオカミルクティーを捕らえることができた。
ケンさんはまだ見習いで何の役にも立っていない私にも5つものタピオカミルクティーを分けてくれた。
1時間あたり1杯のタピオカミルクティーが手に入った計算である。
今回の狩りのことは妹には黙っておくことにした。
この作品はフィクションであり現実には存在しない設定が含まれています。ご了承ください。