これからの… (3)
清天神社から帰り道までの数分。
一緒の道から別れるまで青井と風花は一言も喋らなかった。
「じゃあね」「うんまた明日」
それを最後に別の道を歩く二人。
風花はため息をついた。
住宅街の塀の上に佇むある一人にすら気付かない。
「よっ!」
「ぇ…うわぁ!?く…クリュウさん!?」
まるで猫のように居たクリュウに流石の風花も驚く。
「これから帰りかい?」
「えぇそうですけど…クリュウさんは何用で?」
「巫女さん達が元の住処に帰ったから私達も日常を取り戻したのさ!それで今はハルとヒセのお迎え…食べる?」
団子の一本を差し出すと風花は言葉に甘えた。
「なんだか元気なさそうじゃない?何かあったの?」
気落ちした風花は人生の大先輩に悩みを打ち明けた。
「このまま妖怪と戦うか普通に戻るか…ねぇ…それ妖怪の私に訊く?」
「でも他に頼れる人が居なくて…」
正直に話した風花に笑みをこぼして真剣に考える。
「私にも昔好きな奴が居たんだ…私より強くて優しい人間に…」
「人間に…惚れた?」
その時はそんな感情など持っていなかったクリュウ。
「その人とは最終的にどうなったんですか?」
「死んだ…と言うより同じ人間に殺されたよ」
男を手にかけたのは側近らしい。
クリュウは激昂し側近を自らの手で殺めてしまった。
「残ったのは虚しさと頭の痛み…ずっとそれは消えていない」
恋の結末としてはあまりに悲惨である。
「ぁ…ごめんなさい…辛い事を思い出させちゃって」
「好きで昔話したんだから謝る事は無いよ」
一瞬憂いの表情を見せるがいつもの笑顔に戻ったクリュウ。
「私は人を殺さない約束を破った事に後悔している…多分フラれるよりもずっと重い後悔さ」
さてではどう助言すべきかとクリュウは悩む。
「私からして見れば人の一生はとても短い…だからこそ頑張ってる姿は輝いている」
少し理解を得られず風花は首を傾げた。
「つまり…どういう事ですか?」
「悔いの無いよう自分の思いに全力でぶつかってみな!」
正直な心に進む、
風花は再び自分がどうしたいか頭を巡らせた。
「むむ……うん…ちょっと気が晴れたとも思う!」
「そうかい!じゃ私は陰ながら応援してるよ!」
塀の上から手を振って天青高校の方へ向かうクリュウ。
「ありがとうございました!」
風花は晴れた笑顔で別れを告げた……。
翌日。
登校中の朝に青井と風花はばったり顔を合わせる。
同じ学校の同じクラスなのだから会うのは当たり前だ。
しかし両者とも言うに言えない表情のまま天青高校の校門まで来てしまった。
「「あ…あのね」」
同時に話を切り出そうとして声が重なる。
「…青井が先に言いなよ」
「…風花の方こそ」
お互い目を合わせないが言いたい事は察している。
それを無理やりに割り込んだのは高山の声だ。
「おはよう風花!」
「おわ!?ぉ…おはよう…」
元気を吸われたような風花の反応に青井は彼女の悩みをハッキリと見た。
高山が先に教室へ行ってから青井は風花の袖を引く。
「そんな事で悩んでたんだ」
「そ…そんな事とは何だ!」
「本当にそんな事だよ…もっと私は重大な事に直面してたと思ってた」
風花の選択を青井が強いるほどの力は無い。
だが一緒に歩んできた友達としてこんな所で立ち止まる訳にはいかないのだ。
「風花は巫女か恋愛かどっちを取るか迷ってるんでしょ?」
風花の反応はとても単調だ。
その分かりやすい悩みに青井は安堵する。
「妖怪と戦いながら高山と仲良くなるなんてそんな難しい事出来ないよ…」
妖怪退治はともかく恋愛の難度がどれほどのものか分からない。
「でもそれは風花に勇気が足りないだけじゃない」
「勇気…?」
「私は妖怪の渦中に飛び込むのは怖いと思ってる…勇気が足りないから…でも風花は違う」
自らの前に立ち危険に晒されながら戦う風花に青井はいつも励まされていた。
「妖怪に突っ込むのも男に突っ込むのも多分同じくらいの勇気があればなんとかなるよ!」
「突っ込むって言い方はアレだけど…ありがとう青井!放課後アタックしてみる!」
お互い笑顔になり気持ちは晴れたようだ。
後は勇気を出すだけだと風花は頬を叩く。
そう思いつつも1日の授業はあっという間に終わりHRも終わり放課後を迎えてしまった……。




