これからの… (2)
「…それで私達も将来についてちゃんと考える必要があるんです」
学校から風花は寄り道せず清天神社の社務所へ入った。
いつもなら元気な挨拶を交わすのだが、
無言で入ってきたので青井も元斎も勝一も気づくのが遅れた。
「あ!風花…学校での元気はどうしたの?」
「ぇ……あはは…何でもないよ」
明らかに何かあった顔だが青井は深く触れようとしなかった。
「事情は分かった…」
「最初はごく普通のバイトとして働いてもらってたもんな」
元斎は少し落ち込んだ顔で、勝一は納得して頷く。
いつの間にか青井と風花を妖怪との戦いに巻き込んでしまった事を2人は謝る。
「しかし妖怪の首領…八尾狐が現れて関東の防衛は増強を求められている…2人が妖滅巫女を抜けるのは…」
「そうは言っても2人共若いんだし俺たちは親代わりじゃない…将来を決めるのは俺達じゃないですよ」
若干の口論になりかけて青井はため息を吐く。
「風花は…妖滅巫女続けるんだよね?」
「う!?あぁ……私は…」
思わぬ狼狽え方に青井は眉間に皺を寄せる。
いつもなら元気に妖滅巫女をやると言い放つだろうが、
今の風花は明らかに迷っていた。
「やっぱり学校で何かあったんでしょ?正直に言って」
「な…青井には関係ないでしょ!」
問い詰めると何故か怒られ青井は困惑する。
口喧嘩はこちらでも始まりそうになり場の空気は荒れ始めた。
『つまり…十分な力があれば青井も風花も安心してこれからを決められるって事でしょ?』
社務所の入り口から声が響く。
にんまりと笑うツクヨミが小さな姿で漂っていた。
しかし娘伯の姿は無い。
「ツクヨミさん…何かあるんですか?」
『ちょっと境内を見てほしいな』
手招かれて一同は境内へ移動する。
その中央には人より大きな獣が集っていた。
白い虎は人が乗るのに適した巨体、
翼が燃えながら平然としている赤い鳥、
見覚えのある巨大な亀は尻尾が蛇、
そして宙を泳いでいるのは青い鱗の東洋龍である。
「こ…此処は動物園か!?」
仰々しい様に勝一は驚く。
『ふむ…久しいな未熟な巫女よ』
巨大な亀が喋った。
「あ…もしかして玄武さん!?」
『そうとも!そして並ぶは白虎…朱雀…青龍…四獣の揃い踏みだよ!』
自信満々に紹介する。
どうやらツクヨミ一柱で呼び出したようだ。
『玄武を喚び出した者がまさか同じ神とは思うまい』
朱雀は女性に近い声で頭を下げた。
『我等はツクヨミの命に従い地の守護を約束しよう』
四獣達は遥かに小さな姿のツクヨミに忠誠を誓う。
『そういう事!使役する時は御札を介するけどこれで百人力だよ!』
『しかし…我等を一人の人間に使役するのは些か困難ではないか?」
青龍の言う通りツクヨミが居なければ娘伯は人間と変わりない。
娘伯に四獣全てを扱う事は霊力も体力もこれまで以上に消耗してしまうだろう。
「よく分からないけど扱う人間が多ければ負担は減るんじゃないか?」
勝一の意見に賛同するならば白羽の矢は自ずと決まる。
四獣はいまだに困惑している青井と風花を見つめた。
「彼女らは若輩ながら霊力の扱いに慣れてきている…もしかすれば」
「元斎さん!私達はまだ迷ってるんですけど…!」
青井は先程まで口喧嘩になりかけていた議題を再び挙げる。
四獣の頼みとあっても今すぐの返答は厳しい。
『確かにその巫女には素質がある…しかし心は乱れているようだな』
玄武に心境を見抜かれて青井と風花は頭を悩ます。
『むむ…これは娘伯が戻ってきてから再検討するべきかな?』
話が止まりツクヨミはそんな提案をする。
「そう言えば娘伯さんは?」
「娘伯なら一人で伊勢へ行ってるよ」
目的は娘伯の両親に会うためだ。
「早ければ明日には帰ってくるそうだ…迷子になってなければいいが」
育ての親である元斎はやはり心配を募らせている。
『では今日はお開きにしようか』
『未熟な巫女よ…思いが決まったならいつでも呼ぶといい』
玄武の言葉を最後に四獣は消えてしまう。
『せっかく四獣を説得したんだ…あまり後悔はさせないでおくれよ?』
ため息を吐きツクヨミは拝殿へ戻る。
「あの…私達は…」
「うーんやる事無いからなぁ…無理せず帰っていいと思う」
勝一は面倒そうな態度を取って二人の帰宅を促す。
「最近は妖怪の動きがパタリと止まっているからな…気をつけて帰るように」
元斎にも言われ青井と風花はげんなりする。
「分かりました…また明日」




