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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
白と黒
94/182

【25】これからの…

夏休みが終わりしばらく。

青井と風花は普段の学校生活へと戻った。

「ありがとう青井〜!今度いちごオレ奢るね!」

「こんな事はもう最後にしてほしいかな」

夏休みの宿題は結局青井も手伝い夜更かししながらも完了を迎える事が出来た。

不機嫌なのはただの寝不足である。

そんな青井は下校途中にこんな事を呟いた。


「私達…これからの進路どうする?」

いつか風花にも話した事。

只の人間として日常を送るか妖滅巫女として妖怪と戦うか。

「ぇ……それ今更訊く?」

「先延ばしにして半年くらいで卒業だよ!?」

風花は諦めか覚悟を決めてるのか、

その表情は杞憂を吹き飛ばすようだ。

それでも青井にとってこれまでの出来事は受け入れがたいものであった。


「娘伯さんと会って妖怪と会って終いには神様も…私達はもう普通の人間で居られると思う!?」

「片足どころか腰まで浸かってるじゃん」

この世界の常識を今更否定するのも可笑しな話である。

「もしかしたらこれから先"普通の事"が出来なくなるんだよ?それでもいいの?」

「普通…ってもう何が普通かも分からないよ」

青井も一旦言葉を詰まらせるが咄嗟に放った。

「恋愛とか!結婚とか!」

「……あはは!何それ三十路のOL?」


将来の事など誰にも分からない。

だからこそ青井は選択肢を狭める事は出来ないようだ。

「明日清天神社に行ったらみんなに話すからね!絶対に!」

「それで気がすむなら…付き合ってあげる!」

そうして今日は何事もなく一日を終えた……。



翌日。

授業の間の休み時間に思わぬ訪問者が現れた。

「風花さん…!」

風花に呼びかけたのは同じクラスの男子生徒、高山だ。

少し顔がいいくらいでクラスの中心にいるような生徒ではない。

「どうしたの?」

「放課後とか…暇かな?」

呼ばれる事など見当もつかない風花だが一応暇だと言っておく。

「大事な話?」

「まぁ多分…屋上で待ってるから!」

そう言うと高山は自分の席へ戻ってしまった。


その放課後。

青井には清天神社へ先に行くよう伝えて風花はただ一人で学校の屋上へ向かう。

「それで話って何?」

「あーうん…その…学校生活はあと半年で終わりじゃん」

どこか恥ずかしげに高山は話を切り出す。

「せめて悔いは無いように伝えたい事があるんだ…俺と付き合ってくれないか?」

ラブコメのようだと一瞬思う。

しかし真剣な眼差しで言い放った高山は本気なのだと風花は驚いた。


「ふぇ!?いやいやいや!高山くんとは授業でたまに一緒になる程度の仲でしょ!?」

「だから本心を伝えたかったんだ…今まで言えなくてごめん」

唐突な話に風花の思考は追いつかない。

青井が言った言葉を思い出す。

『"普通の事"が出来なくなるんだよ?』

今こそ普通の事ではないだろうか。

その焦りははっきりと表情に現れていた。

「いきなりこんな事言われても戸惑うよな…」

「ぁ…いや…戸惑ってなんか…やっぱり戸惑ってるかも…返事は今度でいい…かな?」

風花の提案に高山は納得し頷く。


「いつでも…いや冬休みが始まる前に返事が欲しいな」

「ぉ…おぉ分かった…それじゃ…また明日」

ぎこちない動きで風花は屋上を後にする。

高山の表情は僅かに曇っていた……。

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