暴れ蜘蛛 (4)
御札を頼りに青井と風花は目的地に到着した。
既に人気は無い夜のビル街にぽつんと鎮座する寂れた神社。
管理の届いていない無人のそれに青井は唾を飲む。
「妖怪ほんとにここに居るの?」
「御札は光ったままだから…多分」
清天神社を出てから淡い光を放つ御札に変化は無い。
「たのもー!」
道場破りの如く大声を上げる風花。
しかしそれが引き金になったのか、
廃神社を中心に大きな地響きが起こる。
およそ例えの見つからない奇声。
神社を壊し中から巨大な蜘蛛妖怪が現れた。
「これが暴れ蜘蛛…!」
図録での特徴と合致し風花は呟く。
対峙するそれは2階建てに届きそうなほどの体躯を誇っている。
「よーし!覚悟!」
「待って!」
風花の襟を引き止める青井。
僅か数秒後、暴れ蜘蛛は風花の手前へ糸を吐き出した。
青井が止めていなければあっという間に糸に絡め取られていただろう。
「闇雲に突っ込まないで!」
路上駐車された車へ逃げ込む青井と引きずられる風花。
「攻撃しなきゃ勝てないよ!」
「まずは様子を見てそれか…」
意見がぶつかりそうなその時、
盾にしてた車が上空へ吹き飛んだ。
「ぁ…ぁ…」
暴れ蜘蛛の腕力に青井は怖気付く。
蜘蛛が振り下ろした前脚が2人に襲いかかる。
「させるか!」
風花が大幣でなんとか防いだ。
込められた霊力がバチリと火花を散らす。
「風花…あ!」
もう一度引かせようとした青井の動きが止まる。
暴れ蜘蛛の左前脚が無い、
娘伯との交戦で喪失したのだと気付く。
「風花!暴れ蜘蛛の左脚を狙って!」
咄嗟に暴れ蜘蛛の下へ飛び込む風花。
霊的空気銃を構える青井。
硬い引き金を引くとボンと丸い球が鋭く飛ぶ。
風花の思わぬ行動で怯んだ暴れ蜘蛛の左脚で霊的空気銃の球は爆ぜた。
「やった!」
脚の一本がメキリと折れバランスを崩す暴れ蜘蛛。
「このまま畳み掛け…ぐはぁ!」
油断した風花に蜘蛛の右脚が激突する。
渾身の力で放ったそれは小柄な風花を数m吹き飛ばした。
風花の名を叫び駆け寄る青井に暴れ蜘蛛が大きく跳んだ。
巨体に潰されれば2人ともひとたまりもない。
「やっぱり私達じゃ…!」
青井は諦め目を瞑る。
「……ぇ?」
しかし暴れ蜘蛛の轟音は聞こえず代わりに水の弾けた音がする。
ゆっくり見上げると暴れ蜘蛛は水の膜で浮き上がっていた。
「何が起こって…」
水の膜はゆっくりと暴れ蜘蛛を地に伏せ抑え込む。
蜘蛛はひっくり返りなす術なく暴れる。
「っ…!」
再び霊的空気銃を構える。
こちらを見つめる一つ目に狙いを定め引き金を引く。
球は一つ目に命中し爆発する。
苦しみ悲鳴を上げた暴れ蜘蛛に青井はさらに撃ち込む。
2発3発…弾倉に残る球全てが一つ目に当たる。
爆ぜる度に暴れ蜘蛛は奇声を出すも最後の一発でついに地へ沈んだ
「や…やった?風花大丈夫!?」
揺さぶると風花はむせながら意識を取り戻す。
「頭打った…いてて」
大した怪我はしてない事に青井は安堵のため息をこぼす。
「って私が吹っ飛ばされた間に倒してる!」
慌てて飛び起き虫の息となった暴れ蜘蛛に驚く。
「なんか変なのが私達を守ってくれて…」
既に弾けた水の膜に青井は説明が出来なかった。
「トドメは風花に任せるね…」
どっと疲れが押し寄せ青井はその場にへたる。
なら遠慮なくと風花は大幣を一つ目目掛けて振り下ろす。
奇声を最後に暴れ蜘蛛は砂へ変わり都会の空へ消えていった。




