本性 (4)
気付けば娘伯は真っ白い空間の中を漂っていた。
「ここは……」
先程の出来事を思い出す。
ウェンフーから本当の事実を告げられそして胸を裂く痛みに襲われた。
「私は…死んだの?」
あまりにも実感が湧かない状況に娘伯は困惑する。
死後の世界がこんなにも殺風景だとは知らなかった。
どこを見ても手を伸ばしても何も見えず掴めない。
今まで滅してきた妖怪達もこの世界へ来たのだろうか。
そして自身も死後の世界に辿り着いてしまうとは皮肉の限りだ。
「私は…もう…」
消極的な想いに身体が消えそうになる。
このまま何もかも諦めてしまえばどんなに楽だろう。
『……たちあがって』
「…誰」
意識を取り戻すほどの声が聴こえた。
知らない声だが敵意を感じない。
それどころかいつも側に居てくれていたような優しい声だ。
『きみはまだしんでいない』
「どうして…そんな事が言えるの」
無重力でもがく娘伯は必死に声を張る。
そうしなければこのまま掻き消されそうになってしまうからだ。
『きみはこんなことであきらめる"ヒト"ではない』
訳が分からない。
思考が止まりかけて娘伯はまぶたを閉じそうになる。
しかしそれを留めたのは遠くから聴こえる仲間の声。
風花と青井が必死で呼びかけている。
娘伯が倒れてもなお妖滅巫女は戦い続けている。
これに応えるべきなのか娘伯は悩んだ。
『たちあがるんだ』
小さくも綺麗な手が見える。
『こんどはぼくのちからもかしてあげる』
「あなたは……」
掴んだ手の先に蒼い瞳を見た。
幼さ…いや小さな妖精のように澄んだ色をしている。
娘伯の薄れた身体を引き上げると瞳はその中へ入っていく。
「あなたは…だれ…」
「僕は……」
娘伯の意識はそこで途切れた……。
「もう終わりか?妖滅巫女」
ほくそ笑みウェンフーは勝利を確信した。
「こんな終わり方…認めへん!」
「だけど…霊力も式神も限界みたい…」
膝をつく関西巫女を前に妖力を込めるウェンフー。
「アイカが居てくれれば…」
社務所を後ろに倒れるアイサは無理を呟く。
風花と青井は骸となった娘伯を抱き声を上げている。
届かないと知りつつも絶望から目を背ける。
「終いだ」
雷撃を放ちかけた瞬間、
娘伯の身に光の柱が疾る。
天を貫くばかりの光景にウェンフーは振り返る。
『まだ…終わってない』
娘伯から放たれる彼女ではない声。
そして立ち上がる姿に青井と風花は思わず身を引く。
「そうか…やはりお前は殺せないか…ならば…何度でも殺してやる…白巫女!」
ウェンフーが初めて怒号をあげた。
「娘伯…さん?」
呼びかける青井に彼女は答える。
『僕はツクヨミ……八百万が一柱…!』




