本性 (2)
「ちょ!娘伯さん落ち着いて!」
前に出かかる娘伯を風花が抑える。
その瞳は怒りに駆られ我を失いかけていた。
「離して…あれは…私の親を殺した妖怪!」
「だったらどうする?」
明らかに煽るような笑みと指で誘ってくる八尾狐。
「殺す!」
「静まりなさい!」
風花を退かし飛び出そうとした娘伯の前に狐の式神が塞ぐ。
そして声の主は境内の上空から現れた。
「その説教くさい声…まさか!」
和泉は式神から降りてくる巫女の正体にいち早く気付く。
「遅くなったわね…」
田舎で行方知らずとなっていた小百合本人である。
「加減して毒を盛ってやったが…」
「私一人ではあの洞窟で死んでたわ…でも善狐は実在するみたいね」
洞窟で毒を受けた小百合はクリュウ達に助けを乞うた。
貸しを作るのは小百合も不本意だったが、
おかげで八尾狐の想定より早く復帰する事が出来たようだ。
「和泉!私の偽物なんかに遅れを取ってなかったわよね!」
「ったり前や!こんな三下に負けるかい!」
思わぬ増援に妖滅巫女達は士気を上げる。
「娘伯様…あれの話に耳を傾けてはいけません」
「でも…」
「私達は妖滅巫女…私情は持たず妖怪は滅する…それが使命です」
小百合に説かれ娘伯は握り拳を緩める。
「まぁいいさ…どうせお前らは此処で皆殺すつもりだったんだ」
小百合の姿をしていた八尾狐は顔を覆う。
そして雷を纏い本当の姿を見せつける。
頭から生えるは長い獣の耳。
袖の大きな中華服と裾から覗くは筋肉質な脚。
現れた八本の尻尾と赤い瞳がこれまでと違う覇気を感じる。
「本気で来い…真っ向から潰してやる」
「あいつ!男やったんか!」
明らかに体格の良い姿に和泉は驚愕する。
すり替わっていた小百合本人も複雑な心境だ。
「女装なんて趣味が悪い…」
「化けるにはお前が一番適任だったからな」
本当の姿を晒した八尾狐に娘伯が一歩出る。
しかし小百合は彼女の肩を止めて前に立ち塞がった。
「娘伯様…最後の一手は任せます」
「……ん」
少々の不服を感じながら小刀を納める。
「青井!ちょっと無茶をしてもらうで!」
「覚悟の上です…!」
霊的空気銃を構える青井と拳に霊力を込める和泉。
「風花!アイサ!貴方達も行けるわよね!」
「…なんとか!」
「ちょっとくらいの隙なら作りますよ!」
社務所の方で鉈を取るアイサ、
風花はやっとの出番と神楽鈴と大幣を握りしめる。
「いつでもいいぞ…どうせお前達の小細工は効かない」
余裕の笑みを浮かべて八尾狐は手に雷を溜める。
先だって飛び出したのは小百合。
接近しながら式神三匹を繰り出し襲いかかる。
「狐に狐をぶつけるか…だが」
一斉に噛みつかれるが八尾狐は微動だにしない。
「っ…離れて!」
八尾狐から雷撃が放たれ式神を吹き飛ばす。
「ふふ…甘噛みのつもりか?」




