疑心 (2)
「アイカを個室へ運べ!これは一大事だ!」
慌てて戻ってきたアイサ達から状況を知り元斎は声を荒げる。
アイカの傷は僅かに残っており血は収まっていない。
汚れた衣服を取り払い元斎が治癒の御札を貼り付ける。
「まだ信じられない…小百合がこんな事を…」
「アイサ…それは本当なのか?」
「確かに声は小百合さんでした…」
裏切りなのかは一同にも分からない。
「ざけやがって!」
和泉が床を殴る。
鬼に負わされた腕の傷は治りかけてきた。
「和泉さん…気持ちは分かりますけど…」
「小百合は頭ええけど仲間を手にかける真似はせん!」
訴えに巫女達は言葉を迷う。
妖怪と内通している疑いはあったのだ。
それが明白になってしまった事に和泉も信じられないのだろう。
「ただいま戻りました」
青井がただ一人社務所へ戻ってきた。
重い空気が一層の不安を作る。
「娘伯さんは帰ってきましたか?」
「まだだけど…何かあったの?」
心配した風花が問う。
「見回り中に妖怪と遭遇してなんとか倒したけど…それから娘伯さんどこかへ行っちゃって…」
何も分からない青井はそれしか言えない。
「どちらか…ではなくどちらもだった…」
「妖怪とつるんで何する気なんや!」
青井も風花から事を聞いて愕然とする。
「娘伯さんは全部知ってる…だから私達に危険が及ばないよう囮になってるんじゃないかな?」
青井なりの見解だが和泉は聞かずに立ち上がる。
「何処へ行く」
「決まっとる!小百合をぶちのめしに行くんや!青井と風花は娘伯を探しや!」
そう言って和泉は社務所を飛び出してしまった。
「あまり気は進まないけど…行こう青井」
「うん…アイサは社務所に残ってくれる?」
「勿論…元斎とアイカは守る」
まだ治癒を施している元斎を背にアイサは頷く。
「もし娘伯さんを見つけても襲いかからずちゃんと話をしようね?」
「分かってるよ!」
予め風花にクギを刺しておく。
清天神社に吹く風は夏を匂わせるぬるい物だった……。
「どこや〜小百合〜!」
当てもなく和泉は都会を走り回っていた。
「おいやかましいぞ」
近くの屋台から声が聞こえる。
暖簾から覗いた鬼のツノで和泉は慌てて駆け寄る。
「椿鬼か!こないとこで何しとるんや!」
焼き鳥屋の大将と共に焼き鳥を焼いている椿鬼は割烹着姿がよく似合う。
「なにって仕事じゃよ?」
珍しく席は埋まっており客の要望に応えて奮闘している。
「おう!姐さんの友達かい?立ち食いなら空いてるぜ!」
「いやうちは食いに来たんやない…小百合を探しとる!」
「なんじゃと…彼奴を?」
先程まで小百合が店に来ていた事を話す椿鬼。
「レバー1本食べてさっさと何処かへ行きおったわ」
和泉は眉間に皺を寄せる。
「本当に"レバーだけ"なんやな?」
「別に物珍しい串ではないじゃろ」
拳を打ちその顔は怒りにも見えた。
「ありがとな椿鬼!今度飯奢ったる!」
和泉は焼き鳥屋を後にする。
「なんじゃ?」
「姐さん!焼き鳥が焦げちまうぜ!」
仕事を放りかけて慌てて焼き鳥を取る。
今の椿鬼は巫女達に加勢するほどの暇を持っていなかった……。




