【19】 逆襲
「……」
見回りの直前、小百合は都会の地図を見つめ淡々と考え込んでいた。
夕暮れを過ぎ夜を迎えようとしている清天神社は静けさで覆われている。
「何や小百合?腹でも痛いんか?」
茶化した和泉の頭へ否定のビンタが飛ぶ。
「これまでの妖怪の出現場所を記録してたのよ」
「出現場所と言われてもどれもバラバラじゃないですか」
印の付いた地図を横から覗くのは青井だ。
「関係ない…相手がどう出ようと滅する」
アイサの決意にアイカは渋々頷く。
「でも数は決まっているわよね?私達が"連携すれば倒せる"妖怪を都会に放っている」
それは妖滅巫女の技量を測る囮だろうか。
小百合が抱える不安に和泉は聞く耳を持たない。
「怖気付いてるんなら今日はもう寝とき!うちは娘伯と出るで!」
「あぅ…よ…よろしくお願いします…」
娘伯の肩を抱き寄せ和泉は悠々と社務所を出てしまう。
「じゃあもう一組は私達が!」
風花が青井の手を取り名乗りをあげる。
「風花となら安心かな…ん?」
アイサに弓矢を手渡され青井は困惑する。
「練習したなら扱える…」
「まだ私には扱いきれないよ…もう少しだけ練習の機会を与えてくれない?」
「…分かった」
弓矢を返され少し寂しそうにアイサは頷いた。
「行ってきます!」
「気を付けて行ってらっしゃい」
2人を見送り小百合は再び物思いにふける。
「不安か?」
アイサが訊ねるがやはり表情は良くない。
「巫女達なら大丈夫と思っていても相手は人ならざる者…何を仕掛けてくるか見当もつかない」
「よっす!関西からの支給が届いたぞ」
ダンボールを抱えて勝一が現れる。
遅れて元斎も社務所に入ってきた。
「今夜の見回りはもう出発したか?」
「はい…和泉と娘伯様…青井と風花が向かいました」
勝一が個室へダンボールを置くとドッカリとちゃぶ台の前へ座る。
元斎は茶を淹れる為に流しへ向かう。
「元斎様は都会の妖怪出現についてどう思われますか?」
「ふむ…今までと変わらないな…敵意のある者なら滅するだけだろう」
湯を沸かす元斎は特に考えずそう呟く。
「ゲームだったら相性の悪い敵を出す頃じゃないか?」
意外にも勝一が話に入る。
「ゲームって…子供の遊びに例えられても困るわ」
「でも妖怪は何かの準備をしてるような気がするんだ」
人を襲うだけなら獣と同じ。
「ふぅん…例えば?」
着眼点を気に入ったのか小百合は勝一に意見を求める。
「儀式の場所を確保したり都会を派手に壊したり…悪役ならそんな事は考えるだろ?」
人でない者だから常軌を逸した行動も困難ではない。
統率者が居るならばそれはさらに捗るだろう。
「悪…ね…妖怪から見れば私達の方が悪かもしれないわ」
自然を壊し住処を潰し都会に現れれば都合も聞かず滅する。
人間と妖怪が古くから対立を繰り返す以上滅ぶべきは互いなのだろう。
「それでも私達は人間の平和を守るしかないのよ」
小百合の言葉は社務所にただ響くだけだった……。




