新たな素質 (4)
「大丈夫…まだ気付かれてない」
アイサが小さく告げる。
都会の脇道で白い毛並みの小動物3匹は警戒を強めている様子だ。
障害物に隠れて青井とアイサ、アイカは尾行している。
何かを探しているのか鎌鼬は愛らしく首を振っている。
「本当に倒すの?」
当然とばかりにアイサは青井に弓矢を渡す。
まだ被害は出ていないが危険な妖怪である事に変わりは無い。
アイカは杖を取り出し詠唱の準備を始めている。
「昼間の成果…見せる」
鎌鼬3匹は移動を始めていた。
無防備な背中に青井は狙いを定める。
「うぅ……っ!」
引かれた弦が矢を放つ。
しかし情けない弧を描いて矢はカランと地へ落ちてしまう。
「ダレダ!」
鎌鼬は一斉に振り向き青井達に気付く。
「ほらやっぱり!いきなり実戦なんて難し過ぎる!」
弓矢をアイサへ返すと霊的空気三弾銃へ持ち替え躊躇なく発射する。
散開した鎌鼬は球を避け腕の刃を尖らせた。
「弓…難しくない」
無駄の無い動きでアイサは弓矢を射る。
直線に等しい軌道と速度は鎌鼬の1匹に命中する。
「アニジャ!オノレミコメ!」
塵へ消えた兄の仇と鎌鼬は地面すれすれを走り一行へ迫る。
「速い…!」
空気銃を連射するも悉く避けられてしまう。
ほぼ同時に斬りかかる鎌鼬の刃をアイカの結界が遮った。
「ナニ!?」
思わぬ障害に鎌鼬は距離を置く。
「アイカ!」
アイサの持つ鉈へ霊力を込めるアイカ。
「間合いを詰める…躊躇わずに撃て」
青白い光を纏う鉈と共にアイサは突撃する。
鎌鼬までの射線を遮られているが青井は言われた通り霊的三弾銃を撃つ。
まるで予見しているように屈んで球を避ける。
「グオ!?」
爆発に巻き込まれた一匹が吹き飛ぶ。
その隙を逃す筈も無くアイサの鉈は振り下ろされた。
「ヒ…オタスケ…!」
最後に残った鎌鼬が逃走を図る。
「逃すと…」
すぐさまアイサが追いかける。
しかしその声が聴こえたのは直後の事、
『危ない下がって!』
青井にも脳裏に声が響きアイサは素早く下がる。
一歩踏み出していれば遅れて落ちてきた雷撃の犠牲になっていただろう。
「これは…和泉さんの時と同じ雷!」
轟音と閃光で一同の注意が逸れる。
鎌鼬はその隙に何処かへ逃げてしまった。
「……助かった…アイカ」
振り返り礼を言われたアイカは頷く。
「ぇ…今の声はアイカの?」
理解し難い事象だが再び本人が頷く。
「アイカ…予知が出来る…頭に直接危険を知らせる」
雷を落とした張本人が探れるかアイサは訊ねる。
しかし妖気は微弱なのか鎌鼬のそれとも混同し正確な位置は把握できない。
「これ以上の見回り…危険」
「分かった…清天神社に戻ろう」
夜は遅くアイサの判断に従う青井。
脇道を去った一行を見つめる影はビルの屋上にあった。
「まさか2匹も失うとはな…この体たらくめ」
「モウシワケゴザイマセン…」
男の細めた瞳に睨まれ鎌鼬は縮こまる。
「だがこれで妖滅巫女の力は解った…次が本番だ」
男と鎌鼬は都会の闇へ消える。
その行方は誰も知らなかった……。




