新たな素質 (3)
「さて…お手並み拝見と行こうかしら?」
「…ん」
探査札に掛かった妖怪を見つけ小百合は呟く。
夜の都会を漂う大きな布、
その正体は一反木綿である。
人混みの中でも頭を包み窒息させる地味だが厄介な妖怪だ。
既に数人の犠牲者が出て大通りは騒然としている。
「一気に…」
電柱柱に潜んでいた娘伯が飛び出す。
僅かな隙間を掻い潜り飛翔する一反木綿へ迫る。
『ん?げぇ!妖滅巫女か!』
鋭い瞳を見開いて一反木綿は慌てて高度を上げる。
恐らく跳んでも届かないが娘伯は追跡を止めない。
「逃げ切れると思ってるのかしら」
後方では小百合が歩み式神を現す。
2匹の狐が空を走り一反木綿を包囲する。
『やべぇ!やべぇ!』
噛みつかれふらふらになっても高度を上げていく。
「早く追いかけよう」
「分かってる…深追いは禁物よ」
建物の屋上まで逃げてしまったが娘伯は小百合と足並みを合わせ追撃を控える。
「イナは妖怪に食らいついたまま…イヅが戻ってくるから一緒に乗って」
「ん…」
ふわふわと戻ってきた式神に乗り一反木綿を追跡する娘伯と小百合。
ビルの間を抜け一面の夜空が視界に広がる。
「居た!」
一反木綿は式神を引き剥がし高速で小百合達に急接近する。
式神の上で立ち上がり小刀を構える。
霊刀を現し間合いの中へ入った瞬間、
「…っ!?」
稲光が目の前に疾った。
目がくらみバランスを崩した娘伯が落下してしまう。
「娘伯様!間に合わない…!」
星空の下に雷が落ちるなどありえない事だ。
取り乱した小百合を他所に一反木綿は落ちていく娘伯へトドメを刺しに降下する。
『死ねぇ!妖滅巫女!』
首元目掛け突っ込む一反木綿。
しかし娘伯の瞳はそれを捉えていた。
手に力を込めて霊刀を振り上げる。
『ぐ…え…』
縦に両断された一反木綿が塵となって消えていく。
それを見届けると娘伯は平然とビルの屋上へ着地できた。
「娘伯様!お怪我は!?」
遅れて小百合が降りてくる。
「だいじょぶ」
「はぁ…良かった…もし何かあったら皆に合わせる顔が無いわ…」
しかしキョロキョロと娘伯が辺りを見渡す。
雷の正体は未だに掴めていない。
「和泉から報告のあった通りね…前触れも無く落雷が起きる…これは妖怪の仕業かしら?」
「多分…」
明らかに娘伯達を狙った攻撃、
まだ近くに潜んでいるのだろうが探査札は反応を示さない。
「一旦清天神社へ戻りましょう」
「ん…」
小百合の判断に従い娘伯は小刀を鞘へ納める。
屋上から去るまでそれを見つめる遠くの人影はやがて都会の中へ消えた……。




