【17】新たな素質
その昼食はこれまでにない緊迫する事態だった。
清天神社は社務所の個室に設けられたちゃぶ台で小百合と和泉は睨み合っている。
繋がった目玉焼きに掛けようとしているのは互いの調味料、
「目玉焼きなら断然醤油よ…!」
「阿呆め!ウスターソースに決まっとるやろ!」
調味料を退けあってまるで子供の喧嘩だ。
「あーもうどっちだっていいのに…」
「こ…娘伯や?」
呆れる風花達に混じり娘伯が何か持ち小百合達のちゃぶ台へ向かう。
「…ん」
サッと塩を掛けて怒りも込もってちゃぶ台へ叩き置く。
般若のような顔は小百合も和泉も萎縮してしまう程だ。
「っ…今回は命拾いしたなぁ小百合ぃ…」
「それはお互いさまでしょう…」
そうしてこの日の昼食は静かに終えた……。
境内に集合し今日も鍛錬の時間がやってきた。
「今回はアイサとアイカ…基礎体力は大事」
先ずは杜の中をランニング、あまりに平凡な鍛錬だ。
「なぁなぁ小百合ぃラスト1キロは競争と行こうや?」
「そうやって後先考えず突っ走るのが貴方の悪い所よ」
小学生のように絡む和泉に小百合も呆れ果てる。
「……疲れた」
「娘伯さんしっかり…」
最後尾で娘伯と青井が励まし合いながら走っていた。
ランニングで準備運動を終えた一行はアイサの用意した木の棒で近接戦闘の型を学ぶ。
「青井…これ」
「ぇ…弓ですか」
唯一遠距離での攻撃が出来る青井には弓矢を託された。
「古い物…学んだ方がいい」
「でも私には…」
霊的空気銃があると言う前に弓矢を押し付けられる青井。
「的も用意してる…まずは…」
構えから習いぎこちない手つきで狙いを定める。
しかし放たれた矢は山なりどころか目の前で落ちてしまう。
「練習あるのみ…青井なら出来る」
「腕痛い…」
数回の射的で根を上げ腕が棒になった。
「む…無理…まだ引き金引いてる方が楽だってば…」
「あと10回は射る…そしたら休憩」
「若い子は柔軟でいいわね」
型の習得は放棄したのか小百合は和泉を相手にそんな嘆きを交わす。
「何言ってんや!うちら妖滅巫女は生涯現役やろ!」
型を全く覚えてない和泉はがむしゃらに木刀を振る。
なんとなく動きを解っている小百合は平気な顔で避けていく。
「私には弓矢も刀も使いこなせない…わ」
「いで!こら小百合!式神は反則やろ!」
式神で頭を打たれて和泉は当然怒る。
「あ…あの…良ければ手合わせいいですか?」
独特な空気に踏み入ったのは風花だ。
手には身の丈ほどの棒を持ち自信に満ちた顔だ。
「ふーん…ならうちとやろか…手加減せぇへんで!」
互いに得物を構えると緊張した空気へ変わる。
「行くでぇ!」
本気で木刀を振り下ろし先に仕掛ける和泉。
風花は臆する事なく木の棒で受け流していく。
「はっ!」
転じて風花が横薙ぎを繰り出す。
素早い立ち回りに和泉は慌てて防御した。
「あの動き…!」
小百合が風花の攻撃に何か気付く。
「なん!初めてやないんかい!」
普段は神楽鈴と大幣の二刀流を操る風花が棒術を習得してるとは思っていなかった。
その後も和泉は一方的に打たれついに木刀を弾き飛ばされてしまう。
先端が和泉の喉を寸止めて手合わせの仕舞いを告げた。




