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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
関東合同訓練
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見回り (4)

風花と小百合は見回りついでにクリュウ達退魔組の住処へ赴いた。

ビルに挟まれた路地は一人がやっと通れるほど狭い。

風花が先導し進んでいくと名も分からない小さな神社が現れる。

「此処に貴方の友達が住んでるのね」

「いえ…住んでるのは神社の方じゃなくて…」

すぐ側の変哲の無い物置をノックする風花。


「いや…何してるのよ」

「いえだからこっちが」

はーいと女々しい声がし物置が開く。

物置の中は歪んだ空間でハルの頭だけが現れた。

「ひ!?いったいどうなってるのよ!?」

流石の小百合も驚き身構える。

さらに続けてクリュウが顔を出し一歩退いてしまう。

「なんだい風花…今日は鍛錬してあげないよ?」

小百合は呑気に話しかけるクリュウの頭を掴み物置から引き剥がす。


「お姉様!」

「いでで!いきなり何するんだい無礼者!」

思わぬ臨戦態勢にクリュウも威嚇しハルが慌てて物置から出る。

「人に無害な妖怪なんて居ないわ…風花!神楽鈴を構えなさい!」

混濁した状況に風花は手が出せない。

「小百合さん!御札を収めて!」

聞き耳も持たず小百合は御札を繰り出す。

狐型の式神が迫るより早くクリュウは炎の壁を作り行く手を阻む。


「全く…縄張りを荒らすなんてとんだ巫女だよ」

「お姉様此処は私が引き受けます…気に病みますが…今宵はお引き取りを!」

ハルの武具、侶斗(ロッド)が展開される。

小百合の元へ戻る式神も威嚇しやる気に満ちている。

「さぁ…狩りを始めるわよ」

殺気に満ちた瞳を立ち塞がるハルに向けた。


「水よ疾れ!」

侶斗を地へ叩くと巨大な水柱が神社を包む。

小百合は風花の袖を掴むと式神に乗り大通りの方へ離脱する。

直後大波が通路を埋め通りまで溢れ出る。

「あれの何処が無害なのよ!」

「普段は人間を守ってるんです…いきなり襲いかかったら誰だって怒りますよ!」

着地すると水が消え通路からハルがゆっくりと近づく。


「こらハル!他の人に迷惑をかけるんじゃない!」

「ご…ごめんなさい…なら場所を変えて…」

水柱に乗りハルは建物の屋上を目指す。

小百合も逃す訳が無く式神に乗り追いかける。

「ま…待ってください!」

小百合の腰を掴み風花も無理やり付いていく。

「危ないわよ!風花は下がってなさい!」

「友達と戦うなんて見過ごせないから!」

屋上へ着くと風花を引き剥がし小百合はハルと対峙する。


「行きなさい!イナ!イヅ!」

二匹の式神がハルへ襲いかかる。

曲線を描きながら迫るそれをハルは際どく避けていく。

「お姉様に従う身としては"同胞"を傷つけたくありませんが…」

侶斗を振り先端から水しぶきを上げる。

水圧に押され吹き飛ばされるも式神は小百合の元へ戻り再び構える。


「早く…退いてください!」

駆け出し一気に間合いを詰めるハル。

「妖怪を前に背中を見せるなんて妖滅巫女に許される行為ではないわ」

振り下ろされた侶斗を式神がかじり止める。

そしてもう一匹の式神がハルの横腹を切り裂いた。

式神を振り払い距離を置くハル。

静かに迫る小百合には明らかな殺気が放たれている。


「小百合さん!もうやめて!」

風花の呼びかけにも応えず小百合は御札を構える。

ハルも腰に付けた御札を取り詠唱を述べる。

「内なる妖力を解放せよ…氷牙!」

侶斗に鋭利な氷塊を纏わせコンクリートへ叩きつける。

「あの御札は…っ!」

地を疾る氷の柱が襲いかかり後ろへ退いていく。

躊躇った思考を捨て小百合は御札に霊力を込める。


「喰らい給え」

放った御札が式神と合体し人を丸呑み出来る程の狐の頭部へ変化した。

ハルの氷柱は狐の牙により粉砕されてしまう。

「そんな…きゃう!」

元の大きさへ戻ると式神は怯んだハルに攻撃を繰り返す。

猛攻を捌ききれず退魔服を裂かれ吹き飛ばされるハル。


「これで仕舞い」

「待ったぁ!」

ハルの前に立ち風花が迫る式神を神楽鈴と大幣で弾き返した。

「風花!何故邪魔をするの!」

「友達を見殺しになんて出来ない…逃げてハル!」

「ありがとう…風花…」

よろめきながらハルは屋上から飛び降り姿を消してしまう。

追跡の気力も失い代わりに怒りを風花へぶつける。


「友達と言えどあれは危険な妖怪…野放しにしていい存在ではないわ」

「私達はハル達に何度も助けてもらいました…善良な妖怪だって居ます」

甘い考えを持つ風花に思わず手を上げそうになった。

これが関東の妖滅巫女なのだと知り小百合は深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

「今回は見逃すけどもし彼女達が危害を加えるようなら…貴方達が仕留めなさい」

「…分かってます」

踵を返して小百合と風花は屋上を後にする。

和泉達と合流しその夜は事なきを得た……。

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