技能測定試験 (3)
汗ひとつ流さないアイサにアイカが竹作りの水筒を渡す。
「ありがとう……いや…それほどでも無い」
表情の硬いアイサはアイカに笑みを浮かべる。
「さてと…最後に決めてもらおやないかい?」
和泉に肩を叩かれ小百合は少し驚く。
筆記帳を畳むとゆっくりとスタート地点へ向かう。
「…今回こそは…和泉に勝つ!」
スタートの合図と同時に狐の顔を模した紙を2枚飛ばす。
小百合が詠唱するとそれは狐型の式神となり的へ襲いかかる。
小百合……
関西は稲荷大社の妖滅巫女筆頭。
頭は固く常に考えながら行動する堅物。
多数の門下を従え日々鍛錬を与えている為に依頼をこなす時は大多数で行動する。
攻撃手段は狐の式神、
攻撃防御に優れるが決定打に欠ける為に手数で妖怪を滅するのが基本的な立ち回りだ。
「和泉さん?何を書いてるんですか?」
勝手に小百合の筆記をしている和泉に青井が覗き込む。
「これは妖滅連合に提出する報告書や
本来なら出さなくてええのに勉強熱心やろ?」
そう言うと和泉は筆記を止め杜の方へ歩き出す。
「ちょ…ちょっと何する気なんですか!?」
「この試験を作ったんは小百合やからな
ちょっとハンデあった方がええやろ?」
そのまま駆け出してしまう和泉。
的への攻撃は式神に任せ小百合は悠々と駆ける。
今回こそ勝てると確信した直後、
思わぬ相手が目の前に立ち塞がった。
「和泉…ちょっと意地が悪いんじゃない?」
「まぁそう言うなや…こうした方がおもろいやろ!」
無遠慮に殴りかかる和泉を慣れた手つきでいなしていく小百合。
「っらぁ!」
最後の突きを後ろへ避けた。
お互い何かを確かめているようでその表情は朗らかである。
「悪いけどこれ以上付き合う時間は無いの」
「なんやと…お?」
振りかぶる和泉の腕に狐の式神が噛み付いた。
気を取られてる間に小百合は横を抜けゴールしてしまう。
タイムは妨害のせいもあり青井や風花と同じくらいとなった。
「全く…貴方が邪魔しなければ勝てたのに」
兎も角これで全員の試験が終わり特徴と課題を表す事が出来た。
翌日には特訓の計画を練り本格的な鍛錬を始めると小百合は説明する。
「みんなお疲れ様!一旦昼食を摂りましょう」
その為に元斎と勝一は社務所で食事の準備をしていた。
一同が気を緩めると突然の轟音と共に蔵の戸が吹き飛んだ。
「ぬおぉのれぇ!3日も蔵に閉じ込めて何のつもりじゃあ!」
まさに鬼の形相となった椿鬼が蔵から出てきた。
脇には提灯お化けのチョウを抱えている。
『なんだか外が騒がし…姐さんこれ不味くないっすか?』
境内の雰囲気はこれまでになくピリピリしている。
「神社に妖怪…何故…」
アイサは既に臨戦態勢、
状況を把握してない風花と青井とアイカは慌てている。
娘伯は事の次第を知ってたが不覚と言った顔だ。
「あれは報告にあった清天神社の…あ!和泉待ちなさい!」
落ち着いて構えていた小百合だが飛び出す和泉に表情は一変する。
「まだ遊び足りないんや!付き合ってもらうで!」
「なんじゃ御主…っ!」
チョウを放り投げ和泉の一撃を受け止める椿鬼。
「全くこれだから脳筋は…」
小百合は呆れつつ筆記を始めてしまう。
和泉……
八幡神宮の妖滅巫女筆頭。
体力霊力は高いが脳みそまで筋肉で出来ているバカ。
実戦主義を推す八幡神宮では少数精鋭ながら、
常に危険な行動を繰り返し負傷者や脱退者も多い。
その多くは彼女の独断専行が原因である。
身体に霊力を纏わせ格闘術を以って妖怪を滅する。
思想、方針の違いから関西では稲荷大社と対立している事は言うまでも無い。




