嵐の前の静けさ (2)
「起立!礼!」
HRが終わり下校時間となった天青高校。
部活も休止となっているテスト期間、
風花も青井も寄り道せず家へ帰る予定だ。
「おつかれ風花」
「おつ〜」
何気ない会話から教室を出るつもりだったが思わぬ人物から声を掛けられた。
「あのさ…一緒に帰らない?」
風花の前の席…つまり陽石がそんな事を言ってくる。
「ぁ…私もいいかな?」
陽石の前の席である春子も訊ねてくる。
「ヒセ…ハル…おっけー!一緒に帰ろう!」
「途中までなら…」
御山での一件以来、ハルとヒセは二人によく話しかけるようになった。
距離が縮まったのは互いの正体を晒したからだろう。
「明日のテスト自信ある?」
「いや全然」
帰宅道で風花とヒセが学校の事を話す。
まるで何処にでも居る学生の何気ない会話だ。
「あのね青井…ちょっと訊きたい事あるんだけど」
「どうしたのハル?」
いちごオレを片手に青井は帰ってから何をしようか考えている。
「お姉様の事が載ってた本…あれってどこにあるの?」
「あー『新・妖怪図録』だっけ
確か近くの図書館に置いてあったような」
妖怪を事細かに書き記された本は一度読んだきり目を通していない。
「お姉様の事を知ってる人物なんて限られてるから…書いた人に心当たりがあるかも」
それが妖怪の首領に繋がる手がかりにもなる、とハルは説く。
「じゃあ今から図書館に行ってみる?」
「うん!急にこんな頼み事しちゃってごめんね…」
「と言うわけで風花…今日はここまで」
風花やヒセが一緒だとまた場を騒がしてしまうだろうと青井は危険視している。
「ぇテスト勉強は!?」
「えぇっと……頑張って」
サムズアップし図書館の方へ歩く青井。
「それじゃあまた後でねヒセ」
「何かあったらすぐ呼ぶんだぞ!」
ハルと別れ残された風花とヒセはしばらく佇む。
「どうする?」
「ん〜私の家に来る?」
風花の家に行くべきかヒセは迷う。
「おやつとジュース付き」
「行く!」
即決で風花の家へ向かう。
「ヒセ達は百歳くらいで知識豊富なんでしょ?
テスト勉強とか必要無いんじゃない?」
しかしヒセの顔は曇る。
「現代の勉強はついていけない…数学は30点」
「そうなんだ!私28点!」
自分より低い点数の風花にヒセは誇るより心配をしてしまった……。
「まさか盗まれたなんて…」
図書館を出た青井とハルは肩を落としてしまう。
新・妖怪図録は盗難に遭い今は置かれていないと言われたのだ。
現存するのはこの図書館だけで複製も残されていない。
「仕方ないよ…でも盗まれるくらい重要な物なの?」
ハルは訊ねるが青井にも価値がどれほどの物か分かっていない。
「一度戦った妖怪は弱点まで書かれた通りだからデタラメな本じゃないと思うんだけど」
しかし事実を記した本ならば娘伯とそっくりな妖怪が居る事も本当である。
「お姉さまを知る人…誰なんだろう」
「御山の妖怪達は?江戸から来た妖怪もハルのお姉さんを知ってるんじゃない?」
青井の憶測にハルは首を横へ振る。
「御山の方も江戸の方もそんな事はしないと思う」
考えるだけ無駄なのだろうと青井はため息をつく。
「時間空いちゃったね…このまま帰るのもあれだし…私の家に寄ってく?」
「ハルのお家…どっかの神社とか?」
少し得意げに人差し指を立てるハル。
「半分正解!でもきっと驚くよ」
「じゃあお言葉に甘えて…」




