御山決戦 〜宴〜
「いやーみんなおつかれさん!今宵は宴だ宴だー!」
社の中で暇を持て余していた山神を屋敷へ連れ、
騒動を集結させた祝いに宴を開いた。
妖滅巫女達が驚いたのは何より山神の容姿、
言われなければそこら辺の童と変わらぬ幼い姿なのだ。
「アレでも怒らせると屋敷が吹っ飛ぶから…気を付けなよ?」
娘伯の隣で酌を取るクリュウ。
青井と風花、ハルとヒセは酒の臭いを避け別室で鈴芽におもてなしされている。
「クリュウ…久しぶりだな」
「なんだ顔石!生きてたのかい!」
顔石が呼びかけクリュウは席を外す。
代わりに椿鬼が娘伯の隣を占めた。
「山神の計らいで都会の連中と共に此処で暮らすそうじゃ
互いに死人は出したが恨みっこ無しじゃと」
椿鬼が盃を渡そうとするが娘伯は指で返してしまう。
「鬼の酒は呑まない」
「無粋じゃな」
「おーおー君が首謀者を討った人間かー!よくやった褒美を遣わす!」
黄緑の着物で小柄に似合わぬ派手さを放つ山神。
娘伯に気付くと椿鬼を押し退け隣へ腰掛ける。
「いえ…今回は皆の協力があっての成果…私だけの力ではありません」
八百万を前に畏まり一礼する娘伯。
しかし無礼講とばかりに山神は彼女の頭を撫でる。
「謙遜するではない!しかし人間よ何故"俺と同じ"匂いがする?」
問われても娘伯は要領を得ない。
「それは…御山の地を踏んだからでは?」
「違う違う!お前さんから匂うのは八百万…神の匂いだよ!」
やはり解せない様子。
椿鬼の証言もあり山神は何か一つ思いついたようだ。
「娘伯は人間じゃが麓の結界に阻まれてしまったぞ?」
「ならばお前さん…本質は現人神ではないか?
幼き頃に何かあったのではないか?」
「幼い頃…両親が亡くなった事くらいしか…」
「ふむ…少し額を借りるぞ」
手のひらで娘伯の額に触れ過去を読み取ろうとする山神。
しかし強大な力に阻まれて何も分かる事は無かった。
「これは…俺以上の力を持っているのか」
神妙な面持ちで考え込む山神に対し娘伯はきょとんとするだけだ。
「そもそも八百万の信仰と現人神の霊力では月とスッポンの筈…神霊が八百万を超え…うぶぁ!?」
ぶつぶつと呟き始めた山神に呆れ椿鬼が酒を流し込む。
「難しい事など後にせい!今は宴を楽しもうではないか!な?娘伯」
「……ん」
心残りはあるが山の幸を口にしてご機嫌になる娘伯。
本人が気にしていないならそれでいいかと、
気持ちを切り替えて山神も酒を椿鬼に返す。
「椿鬼と言ったな?クリュウや都会の者共と面識もあるようだし…お前さんも御山で暮らしてみるか?」
大天狗からも褒めの言葉を貰っていた椿鬼。
山神からの催促を受けてもその心は変わらない。
「儂は都会で暮らすのが性に合ってるようじゃ…そうじゃろ娘伯?」
「悔しいけど私より都会の楽しみ方を知ってる…」
人間と妖怪が親しくなってる様に山神はため息一つで諦めた。
「クリュウと同じだねぇ…彼奴にも二度目を断られたよ」
人間と妖怪と神様。
屋敷で繰り広げられた不思議な光景は今宵限りだろう。
しかしその日は御山にとって一番の賑わいを見せた。
翌朝になり寧ろ宴の疲れが残る妖滅巫女一行。
御山の者やクリュウ達と別れを告げ麓まで降りると、
何食わぬ狐の面で妖滅連合の遣いが車を停めていた……。




