御山決戦 (5)
「追っ手は来ないな!このまま頂上まで急ごう!」
駆け足で二つの影が山道を疾走する。
屋敷を離れしばらく経つが都会の妖怪達の追撃は無い。
「道は大丈夫なの!」
「昔来た事があるから心配するなって!」
クリュウの道案内に娘伯は不安になりながらも続く。
やがて林を抜け山頂とは思えぬ草むらの一帯に辿り着いた。
「あれだ!山神の家!」
クリュウが指差す先に豪邸とも言える社が鎮座している。
後は山神を見つけるだけと安堵し娘伯はゆっくり近づく。
「ん?…待て!」
豪風が二人を阻み視界が塞がれる。
風が止み散った雑草が収まるとクリュウ達の前に烏頭の男が立っていた。
「どっち側の妖怪!」
「見ない顔だな…御山でも江戸に居た奴らでもない」
顔が利くクリュウですら烏の正体を知らない。
「そう不審がる事は無いでしょう?
これでも顔石のお側に従っているのですが」
娘伯はおろかクリュウも警戒を解かない。
「私の直感が警告してるんだ…あんたは江戸の連中よりタチが悪いって」
椿鬼が現代へ来たばかりに受けた話を思い出す。
「そもそも江戸の奴らは過去へ行きたがっていた…それなのに"偶然"未来へ飛ばされ姿を消し突然御山を襲った…現代に来てから何があった?」
「待って話が解らない」
推理するクリュウと置いてけぼりの娘伯。
「江戸の妖怪達はこの時代へ来てしばらく誰かに匿われてたかもしれないって事
そもそもあれだけの数が居るならあんたのとこに討伐依頼が来る筈だろう?」
言われれば椿鬼が神社へ来た時期に討滅依頼は無いと娘伯は納得する。
「お前の裏には誰が居る?現代で威張ってる小物か?」
そこまで察するかと烏天狗はため息を落とす。
「隠し事は無駄と言うべきか…妖狐の類は勘が鋭いのですね」
烏天狗は謎の首輪を外し捨てる。
直後、周囲に巻き起こる風は嵐のような激しさに変貌した。
「なんだこいつ…妖力が増した!?」
「今まで封じていたんですよ…此処からは容赦しない」
夕暮れが迫り落ちていく陽が両者を赤く照らす。
「娘伯…あんたは下がってな!」
「待って…っ!」
突風に耐えられず嵐の外まで吹き飛ばされてしまう娘伯。
中では炎が煌めき風の音が響いている。
「ここまで来て何も出来ないなんて…ぁ」
夜が近づいている事に気付き娘伯は妙案を得る。
それまでクリュウが凌げるか時間の問題だ。
「娘伯さん!」
後ろから馴染みの声がし振り返る。
土だらけの青井と風花、どこかで見た二人がやって来た。
「ご無事で何より!」
「姉上!」「お姉さま!」
見覚えのある二人は嵐の中へ叫ぶ。
「ハルとヒセ…クリュウさんの仲間です」
「えっと…学校に居たような」
今は自己紹介してる場合ではないと思いを改める。
「あの中にクリュウが居る」
ハルとヒセは頷き腰に携帯している御札を取る。
「「内なる妖力を解放せよ…」」
「氷牙!」「土涛!」
ハルの棒型武具の先端に氷の刃を、
ヒセの左腕の手甲に岩の塊をそれぞれ纏った。




