御山決戦 (3)
「どうしてこんな事を…」
既に幣と神楽鈴を構えた風花に対し青井は決心がつかない。
「貴方達の為ですよ…これから先妖怪との戦いは厳しくなる」
「てやあぁ!」
先に飛び出したのは風花の方だ。
振り下ろす両手の得物、
しかし九之助は軽く受け流し後ろへ弾き飛ばす。
「時に残酷な選択も迫られる…その時…貴方達に覚悟はあるか?」
「当然!その為に私達は妖滅巫女に!」
風花は再び幣を振るう。
しかし背を向ける九之助は予見したように錫杖で受け止めた。
「風花様は…攻撃が真っ直ぐ過ぎる」
直後に錫杖の柄が風花の横腹を襲う。
吹き飛ばされた風花は木の幹へ衝突する。
「あまりに無謀…力ある者にその手は危険」
「ぐぅ…青井!撃って!」
迷いはあったが風花の怒号で青井は霊的三弾銃を構える。
「ただ狙いを定め撃てばいいと思っているでしょう?」
ドンと発砲音が響くと同時に三発の球が放たれる。
九之助はその身に当たるより速く錫杖を突き青井の方へ弾き返してしまった。
「ひっ…!」
撃つより倍の速度で球は木の幹に突き刺さる。
「甘い」
風花が迫るも幣は九之助に届かずまたも錫杖に打たれて吹き飛ばされる。
「うわぁ…容赦ない…ハル?」
見かねたハルがボロボロな二人へ歩み寄る。
「九之助様はあれで目が見えてないよ…でも気配で察し対処してしまう」
青井と風花、二人掛かりで挑む意味を伝える。
「あと風花にこれを…私の武器を使って」
「これなら行けそう!」
折り畳まれた棒状の得物をハルは貸す。
「ハル…助力はするなと言いましたよね」
「でも傷つく二人を見過ごす訳にはいきません」
助言をした所で大きな変革は無いと九之助は侮っている。
頑張って、と一言応援しハルはヒセの隣に戻った。
しばし手を考え青井と風花は立ち上がる。
「危険かもしれないよ」
「やるなら1回限り…行くぞ!」
風花を先頭に青井が続き距離を詰める。
九之助は微動だにせず構えたままだ。
「はっ!」
まだ数メートルあるにも関わらず風花は爆破の御札を地面に叩きつけた。
「それで耳を潰したつもりですか…」
耳鳴りの中でも九之助は気配を捉えている。
遅れて自分に迫るのが霊的空気銃の球だと察する。
「…っ!これは…"前の"方ですか!」
6連続で撃たれたそれが拳銃型の霊的空気銃だと気付き九之助は悉く打ち払う。
しかしその違和感に気付くのに一歩遅れた。
「やあぁ!」
上からの風花の声、
振り下ろされたハルの武具を錫杖で際どく受ける。
「爆破の衝撃で飛ぶとは…それにこの武器はハルの物ですね!」
迫合いの最中に青井が霊的三弾銃を撃つ。
その軌道は風花へ向かっている。
九之助が風花を打ち飛ばし立ち位置が前に進んだ瞬間、
九之助の横で霊的三弾銃の球が爆発する。
「ぐっ…予測してきましたか…まだ!」
九之助を挟み風花がハルの得物で、青井が銃剣で突きに掛かる。
受け流せないと覚悟して九之助は隠し玉を解禁した。
「なっ!」「っ!」
互いの動きが静止する。
柄から現れた仕込み刀と錫杖の切っ先はそれぞれの首筋で止まっている。
しかし武具も銃剣も九之助の首元を捉えていた。
「……ここまでですね…よく頑張りました」
九之助が負けを認め錫杖を納める。
息の上がった青井と風花はその場で尻餅をついてしまう。
「この仕込み刀は私の禁じ手…これほど追い詰めてみせるとは思いもしませんでした」
「はぁ…はぁ…伊達に…修羅場をくぐってませんから…」
ハルとヒセが疲れた二人に駆け寄り肩を貸す。
「認めましょう…貴方達は一人前の妖滅巫女です」
道を譲り九之助は優しく微笑んだ。
「娘伯さんに比べれば…まだまだ…」
「えぇ…彼女は良い目標でしょうね
この先に社があります…ハル…ヒセ…二人をよろしくお願いします」
ハルとヒセは会釈し青井達と共に山神の社へ向かう。
残る九之助は闘いの高揚感を抑えきれなかった……。




