御山決戦 (2)
「ありがとう鈴芽!おかげでぐっすり眠れたよ!」
朝食も馳走になりヒセ達は全快で行動に移る事が出来た。
「あの…お代金は…」
「いいよいいよ!今日は有事で忙しいからお代は要らないよ!」
不安がる青井に鈴芽は笑顔を返す。
「その代わり今度は観光で来てね!」
「か…考えておきます」
「頂上までの道のりは…」
ハルは地図を確認し現在地と頂上を指差す。
「地図には何も無いけど本当に山神様の社はあるの?」
「人は来ないから当然地図にも記されてないよ?
山神様の社はどちらかと言うと屋敷で住むのに苦労はないんだ」
風花の疑問に鈴芽が答える。
「姉上も向かってる筈…急ごう」
「お世話になりました」
「行ってらっしゃーい!」
鳥の翼を目一杯振り鈴芽と別れを告げた。
「今度は鈴芽のお蕎麦食べれるといいな」
昔を懐かしみヒセとハルは駄弁りながら山道を進む。
10分は経っただろうか。
他愛の無いそよ風が吹きハルとヒセが止まった。
「どうしたの?」
「気をつけて…誰か居る!」
妖力混じりの風が二人に異変を知らせる。
青井と風花も得物を構えて臨戦態勢だ。
「誰だ!どっちの妖怪でも出てこい!」
風花が思い切り叫ぶと木霊した声が返ってくる。
やがて林の方から男の声がした。
「少しわざとらしかったでしょうか?」
スーツ姿と胡散臭い狐の仮面で青井と風花は正体に気付く。
「妖滅連合の遣いさん!」
「下で待ってる筈じゃ…?」
しかしその声に心当たりがあるのはハルとヒセもだった。
「その声…もしや」
「妖気で感づいていましたよね?ハル…ヒセ」
「えっと…知り合い?」
状況を呑み込めない青井と風花。
「なら本当の姿をお見せしましょう」
遣いは仮面を外しその場で回転すると、
黒い翼を背に生やし錫杖片手に山伏姿の男へ姿を変えた。
「お姉さまの旧友…私にとっての師匠…」
「そして今回の依頼を与えた張本人…」
「烏天狗の九之助と申します…以後お見知り置きを」
短い黒髪が風でなびき一礼する九之助。
まぶたは閉じているが妖気は特に青井と風花へ向けられていた。
「妖滅連合の人と妖怪が裏で繋がっていた?」
「連合の方に人間として信頼を得るのは苦労しました…
ですが諜報力を買われ元斎様が現役の頃から遣いの任を務めてましたよ」
九之助は錫杖を鳴らしながらゆっくり近づく。
「どうして私達だけじゃなくハル達にも依頼を?」
「故郷を思う心は妖怪にもあるのです
それに…人手は多い方が助かるでしょう?」
「じゃあこれからは遣いの…九之助さんも手伝えるんですね?」
風花の甘い考えに九之助はため息を落とす。
「私は戦うには適さない身…ですが力を見定める事は出来る…此処へ来たのはそれが理由です」
錫杖を構える九之助を前に青井達は察した。
「ハル…ヒセ…貴方達は手出し無用です」
「っ…畏まりました」
ハルは師匠である九之助の強さを熟知している。
しかし僅かな助力も許されない事に握り拳を強める。




