【12】御山決戦
「ん…よく寝た」
布団から起き背伸びした娘伯は疲れも取れた様子。
御山の屋敷は夜の宴から一転し当たり前のような緊張感に包まれていた。
「あといちじかん…むにゃ…ぎゃ!」
寝ぼけるクリュウの布団を引っぺがす娘伯。
転がるクリュウに巻き込まれて隣で寝てた椿鬼も飛び起きた。
「な!なんじゃあ!」
「朝」
それだけ伝え娘伯はサラシと巫女装束を整える。
「おはようございます皆様…大天狗様がお呼びです」
案内された昨夜の大広間は大きな机と地図が広げられている。
「偵察の天狗によると敵は屋敷を包囲しつつあると…」
「今動ける者は?」
大天狗の問いに木葉天狗は俯いてしまう。
「せめて一方面を少数で抑えられれば」
「なら私達が…」
娘伯が名乗り出る前に椿鬼が待ったをかける。
「儂がやろう…御主ら二人で頂上を目指せ」
娘伯とクリュウに視線を向ける椿鬼。
「人間と組めってのかい?冗談も休み休み言えって」
愚痴ったクリュウを娘伯が睨みつける。
明らかな拒絶を見せたが椿鬼は構わずにやけた。
「娘伯は信頼に足る人間じゃよ儂が保証する」
「椿鬼に言われても嬉しくない」
「釘を刺しとくけど後ろから斬りかかるんじゃないよ」
険悪な雰囲気だが大天狗の咳払いで場は静まり返る。
「椿鬼殿は正面を守ってくれ…クリュウ殿娘伯殿…必ず山神様を救ってくれ」
「さぁさぁ宴の始まりじゃ!派手に行くぞ!」
元気よく椿鬼は屋敷を出て行くと御山の妖怪も続く。
「あの…昨晩はどうして式神を?」
娘伯が大天狗に理由を訊ねる。
暴露ていたかと大天狗はため息をついてしまう。
「貴方達を都会側の密偵と疑っていた…すまない」
なんだその程度かと今度は娘伯がため息を返す。
「依頼を受けた以上御山の妖怪は守ります」
「うむ…その言葉信じよう」
「何してるんだい!早く行くよ!」
クリュウに急かされ娘伯は大天狗に一礼し屋敷を出て行く。
御山で生まれ育った大天狗はこれまで一度も人間と話した事が無い。
しかし娘伯には何か不思議な力を感じると心の中に思い留めた。
「既に敵はおるぞ!気張っていけい!」
椿鬼が率先して敵陣に突っ込む。
都会妖怪の注目が彼女に集まり娘伯達も行動を開始した。
「なんだ…ぐわ!」
御札で痺れた鬼を霊刀で斬り捨てる。
活路が出来るとクリュウも続く。
「いいぞ…彼奴らに容赦するな!」
追っ手に置き土産とばかりに火球を放つ。
「ふっ…さぁ来い雑魚ども!この椿鬼が相手じゃ!」
無事に包囲網を突破した二人を見届けると椿鬼は再び拳を振るった……。




