御山騒動 〜7合目〜
これまでの行動……
娘伯・椿鬼・クリュウ…北方向から進軍、御山妖怪と合流し拠点である屋敷へ向かう…
「つ…疲れた…」
山道を進み続け最初に根をあげたのは青井だ。
元々運動が得意ではない彼女ではハル達に付いて行く事が厳しい様子。
「そろそろ日が暮れるよ…まさかここで野宿?」
風花の問いにハルやヒセは答えを迷う。
安全の確保されてない山中では妖怪以外の危険も多い。
睡眠も食事も取れなければ体力の回復も難しいだろう。
「せめて雨のしのげる洞窟があれば…ん?」
ヒセが離れた場所に灯りを見つける。
柔らかな白い光は炎でなく家屋の照明だと分かった。
「あそこ…誰かの家かな?」
「妖怪の居る山に人間が住んでるの?」
ハルとヒセの議論に青井の我慢が煮え切る。
「とにかく行ってみよう!もしかしたら泊めてくれるかもしれないでしょ!」
段々と夕陽も消えかけ闇が近づく。
一行は警戒しながら家屋の方へ向かった。
「これは…小屋とか家の規模じゃない」
たどり着くと開けた地に屋敷と呼ぶべき家屋が建っていた。
玄関の上には看板が掲げてある。
「…雀乃巣?」
太い筆で看板にはそう書かれている。
「すいませーん!」
風花が玄関前で一声掛ける。
しばらく静寂が続き留守を疑った。
「まさか…誰も居ない?」
「でも灯りはついてるし…」
しばらくして中からドタドタと足音が聞こえてきた。
「お待たせいたしましたー!御山の方ですか?」
割烹着の少女、しかしその腕は鳥の翼で青井と風花を驚かせる。
「よ…妖怪!?」
「おや人間の方は珍しいですね…ぁ」
割烹着の少女はハルとヒセを見て目を丸くする。
それは二人も同様だ。
「ハルー!ヒセー!久しぶりー!」
「鈴芽ちゃん!」
「久しぶり…て抱きつくなー!」
まるで引越しした友と再会したはしゃぎっぷりに青井と風花は事態を把握できない。
「お友達?」
「江戸時代に蕎麦屋やってた鈴芽ちゃんだよ」
「初めまして〜今は雀乃巣で女将をやってる鈴芽と言います」
鈴芽は送り雀と言う妖怪。
「もしかして顔石と一緒に現代へ来たの?」
ヒセに訊かれてもはてと首を傾げる鈴芽。
「江戸での騒ぎから逃れてこの御山で命を救われたんですよ
それからずっとここで旅館をやってるの」
「ずっと外に居ると風邪引いちゃいますから部屋へ案内しますよ」
「それじゃあお言葉に甘えて!」
鈴芽に先導され一行は宿の中に入る。
途中の部屋では妖怪が傷を負いながら布団に伏せている。
「御山の方も江戸の…都会の方も隔てなく泊めてるから人手が足りなくて」
「…見分けがつかない」
青井は率直に呟く。
「ここはまだ怪我人で済んでるけど屋敷の方は死傷者が分からないほど混乱してるの
なんでも3人組の妖怪が介入して…」
恐らく椿鬼や娘伯、クリュウの事だろうと青井達は察する。
「屋敷の方とは連絡出来るんですか?」
「式神で会話だけなら出来ますよ…後で料理と一緒にお持ちしますね」
長い廊下を歩き続け梅の間と書かれた部屋に案内される一行。
中は4人でも悠々と寛げる和室で押入れには布団と浴衣が用意されている。
「銭湯もあるからさっぱりしてくる?」
「「もちろん!」」
ヒセと風花が同時に答えた。
「それじゃその間にお料理を用意するね!」
競争とばかりにヒセと風花が走り出す。
青井とハルはそんな二人に苦笑いしつつ銭湯へ向かった……。




