鬼の昔話 (3)
「そして儂等は現代へ飛ばされた訳じゃ」
焼き鳥を頬張りながら椿鬼は昔話を終える。
「今でも何故過去ではなく未来へ来たのかは解らんよ」
「結局仲間には会えたんです?」
風花が訊ねても椿鬼はため息をこぼすだけだ。
「それもわからん…同じ空間へ入ったのなら訪れた時は同じ筈じゃが…」
離れ離れになって顔石達とは連絡がつかない。
「まぁ奴らの事なら上手くやっておるじゃろ」
妖怪がしぶとい身体なのは風花も知っている。
都会の中で姿を現さないなら今頃は遠くの地で平和に暮らしているのだろう。
「それにしても此処は客が居ないのう」
話題を変え椿鬼は大将の焼き鳥屋について訊ねる。
「そんな事ねぇぜ姐さん!神社の兄さんとか白い髪の嬢ちゃんとかそれから」
姿を思い出そうとした所に椿鬼の背後から腕が伸びる。
「いつものだ」
値段ピッタリの小銭を手に男の声がした。
「おう!ちょうどあんたの事話してたんだぜ!えっと…」
「早くしろ」
催促され大将は小銭を受け取って鳥レバーを渡す。
男は一本食べながらあっという間に去ってしまった。
「常連の割に無愛想ですね」
「名前も教えてくれないからなぁ」
何か気になったのか椿鬼は暖簾から顔を覗かせる。
姿を消した男の雰囲気に首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「いや…どこかで感じた雰囲気じゃったからな」
独り言のように呟き椿鬼は席へ戻る。
「もしかして昔の仲間とか?」
「いや…そうゆう訳ではないんじゃが…」
胸のモヤが引っかかるようだが言葉でうまく表せないようだ。
「酔ってるならもう帰りましょう?
私も焼き鳥のお礼に神社まで行きますから」
お開きムードを感じ取り椿鬼はため息を吐いた。
「すまぬな大将…今日はこの辺にしとく」
「おう姐さん!また来てくれな!」
会計を済ませ椿鬼は席を立つ。
「チョウさんも帰りましょう」
『うぃっす』
風花はチョウを取りふと気になって訊ねる。
「さっきのお客の姿見ました?」
『んー金髪に獣の耳が生えてたっすね…あれは狐っすか?』
まるで絵に描いたような九尾狐だと風花は笑う。
「…やはり思い過ごしか…儂の友にそんな奴はおらんよ」
笑みを見せ椿鬼と風花は何気ない談話をしつつ清天神社へと向かった……。
「あいつ…忘れかけてたな」
レバーを食べ終わった男は何処かも解らない地下に居た。
「……椿鬼…今はどうでもいいか」
地下室の扉を開けると中には数多の妖怪達が不安な表情を見せていた。
「おい!いつまで我らを幽閉するつもりだ!」
その内の1人…顔石が男に怒鳴る。
「慌てふためく都会で保護してやったのはどこの誰だ?」
男が言うと顔石どころか騒つく妖怪達も黙ってしまった。
どうやら彼らは時を超え現代に降り立って以来男の世話になっている。
「やっとお前らの移住先を決めたんだ…ありがたく思え」
そして男は妖怪達に計画を話す。
かつてない騒動が密かに起ころうとしていた……。




