人として、巫女として (5)
清天神社を出て10分ほど、
青井と風花は目的地に到着した。
「ここ…彩おばあちゃんの"ほろあま庵"!」
娘伯と初めて一緒に昼食を取った場所。
店はいつもの照明で照らされているがそろそろ閉店の時間だ。
ドアを開けると鈴の音が、
『都会の一角で中継が繋がっております』
店内のテレビがニュースを報じている。
テレビに注視していた見知らぬ女性はドアの鈴に気づいて振り返る。
「いらっしゃいま……せ…」
長い白髪が翻り青井達と目が合った。
「娘伯さん…!」
「……人違いです」
慌ててトレーで顔を隠すがとうに遅く諦めてメイド姿を晒す。
「あらいらっしゃい青井ちゃん風花ちゃん」
カウンターの奥から彩が出てくる。
青井と風花は会釈し娘伯へ向き直す。
「あらま?少し席を外した方がいいかしら?」
空気を読んで彩はテレビを消しまた厨房へ行ってしまった。
「娘伯さん怪我は大丈夫なんですか?」
「……」
無言で娘伯は頷く。
事情を訊くべきだろうが今はそれどころでは無いのだ。
青井は単刀直入に話を切り出す。
「今この都会に大群の妖怪が迫ってます…私達だけじゃ対処しきれない…だから」
懐から青井は小刀を差し出す。
娘伯の表情は一瞬強張った。
「私達と一緒に戦ってください…お願いします」
携帯電話が鳴り慌てて出る風花。
「あ!勝一さん!…罠は仕掛け終わったんですね…ありがとうございます!」
勝一ですら駆り出される現状に娘伯はやっと顔を上げた。
それでも自分が今戦うべきか決め兼ねている。
「私達は都会を守る為に戦います…娘伯さんもこれまでそうだった筈ですよね?」
青井の言葉で気持ちは揺らぐ。
しかしまた失敗をしたら、
誰かを危険な目に遭わせてしまったら、
娘伯の脳裏で先日の惨事がフラッシュバックする。
「……待ってますよ…娘伯さん」
「娘伯さん!今度またご飯食べに行きましょ!」
日常を望む風花の約束を最後に2人はほろあま庵から出て行く。
テーブルに残された小刀をまだ手にする勇気は無い。
「娘伯ちゃん」
「…おばあちゃん」
優しい声で彩が娘伯の元へ寄る。
震えていた手を握り彩は語りかける。
「娘伯ちゃんは少しだけ迷子になってるだけ…道が分かれば後は真っ直ぐ進めるはずよ」
「でも私…失敗が怖い」
「失敗なんて誰でもする物…だから自分を信じなさい…くよくよせず前を向いて」
娘伯は彩の笑顔でやるべき事に気付いた。
テーブルの小刀を見つめ進む道を決心する。
「おばあちゃん…私行ってくる…!」
「それなら巫女服を出さないとね?娘伯ちゃんにはあれが一番似合うから」
綺麗に畳まれた巫女装束に素早く着替え、
娘伯は此処で覚えたポニーテールに結び直す。
「ねぇおばあちゃん一つ約束してもいい?」
「言ってごらんなさい」
「また此処に…手伝いに来てもいい?」
頼みとあらば仕方ないと彩はため息をこぼす。
「暇な時はいつでもいらっしゃい」
「ありがとう……行ってきます!」
娘伯は小刀を手に夜の街を駆け出した……。




