人として、巫女として (4)
早朝の寒さに布団の中で身震いした娘伯。
いつもと変わらぬ朝に欠伸をしながら起きる。
「……治ってる」
怪我した足が快調な事に気付き包帯を外す。
傷は塞がっており綺麗な御御足が日光に照らされた。
元斎はまだ寝ている。
用心して巫女装束に着替えちゃぶ台に書き置きと小刀を残す。
そして娘伯はその身一つでどこかへ出かけてしまった……。
「娘伯が家出して3日…いったい何処へ…」
書き置きを握りしめて元斎は唸った。
『探さないでください 娘伯』
とてもシンプルな内容のそれに残された者は動揺している。
「そんなに落ち込む事かよ…」
事の重大さを理解してない勝一はため息をこぼす。
「こんな時に依頼が来たら…」
ぽつりと青井が呟く。
「…その時は2人に任せる」
いつもなら力強い元斎の言葉も今回ばかりは弱々しい。
昼下がりの清天神社はかつてない危機を迎えている。
『何か厄介事でしょうか?』
「うわぁ!?」
社務所の入口に妖滅連合の遣いが立っていた。
悪い予感が見事的中し青井と風花に冷や汗が垂れる。
「こちらへ」
『いえ話が混んでおりますので簡潔に依頼を伝えます』
個室へ促す元斎に遣いはその場で依頼を説明する。
『先日逃した山鬼が今度は群をなして都会へ攻め入るつもりのようです
恐らくは今夜中…早急に準備し対処をお願い致します』
「ま…待ってください!妖怪はどれほどの数で攻めてくるんですか?」
あまりにも情報が少なく青井が詳細を催促した。
『連合の偵察では10を超えているとか…私の予測では30ばかりだと思われます』
それでは、と遣いは会釈し神社を去ってしまった。
元斎すら相手した事のない大群。
見習い2人で全て滅する事は不可能だろう。
「急いで罠の設置だ!勝一も手伝え!」
緊急事態に元斎も焦りの表情が現れる。
手早く足止めの御札を用意し束になったそれを勝一に渡す。
「椿鬼も居ればきっと加勢してくれるんじゃないか?」
「妖怪を信用するな!此処は人間の手で守る」
勝一の提案は一蹴されてしまった。
「……私達…娘伯さんを探してきます」
重い空気の中、青井はそう切り出した。
「2人に任せる…そう言ったはずだ…今更娘伯に頼るなど…」
「本当にそんな事思ってるんですか?
今まで一緒に過ごしてきた娘伯さんをあっさり切り捨てるなんて…!」
「今は口喧嘩してる場合じゃ!」
珍しく怒りの声を上げる青井に風花が止めにかかる。
「私達だけじゃこの都会は守れないんです…娘伯さんも居てくれなきゃ私達は…」
握り拳で必死に震えを堪える青井。
元斎もやはり娘伯の事を少なからず案じているようだ。
「…ならば早急に見つけてくれ…罠は勝一とでやる」
「娘伯を見つけたら1発ガツンと言ってやれよ!」
勝一は元斎の後を追い清天神社を後にする。
当てのない筈の青井だが風花の手を引き鳥居をくぐる。
「ど…どこに行くの!?」
「多分娘伯さんが向かうなら…あそこしかないと思う」
石段を降り唯一娘伯と2人が知る場所を目指した……。




