人として、巫女として (3)
「幸い大きな怪我では無いが…一週間は安静にしてた方がいいな」
社務所で元斎に手当てしてもらい娘伯は謝罪の言葉を漏らした。
「…ごめんなさい」
「でも娘伯さんのおかげで私達は無事なんですよ!」
「風花を助けてくれてありがとうございます」
青井も風花も感謝の意を示している。
「まぁ自分でミスしたんだから自業自得だよな」
うっかり勝一が正論を口走り場の空気は気まずくなった。
「ぁ…ごめんごめん!一度の失敗で気にするなって」
慰めの言葉も沈んだ娘伯の心境には何も効果を成さない。
「全くそう気負いする事は無かろう?
怪我が治るまでは青井と風花に任せれば良いではないか」
見習いである2人の足手まといになった事、
先走り妖怪を逃してしまった事、
そして自分の失敗で自分が怪我した事、
これほどの失態を犯した事が無い娘伯には涙が落ちそうなほど悔しかった。
「娘伯や!どこへ行く!」
これ以上此処に居座りたくない思いで松葉杖を立てる娘伯。
「ちょっと…蔵に行ってくる」
嫌な事があればいつもそうだと元斎は諦めため息をこぼす。
結局その場の皆は何も言わず娘伯を一人で蔵へ行かせてしまった。
「…大丈夫なんですか?」
青井の問いに元斎は何も言わなかった……。
「チョウ…?」
戸を身体で開け訊ねる。
荷物と同化している提灯から舌が生えた。
『おや姐さん…ってどうしたんすかいその怪我!?』
身体を揺らし提灯お化けのチョウは大変驚いている。
「仕事中に怪我した…私のせいで」
重なった箱に座ると堪えた涙が溢れてしまった。
不甲斐ない思いの娘伯にチョウはなんと言えばいいか戸惑う。
「みんなに迷惑かけて怪我して妖怪退治にも失敗して…私って…」
潰れてしまいそうな掠れた声で娘伯は嘆く。
これまで一人で戦ってきた娘伯には青井や風花と共に戦う術を知らない。
そして取り残され自分が足手まといだと思い込んでしまっている。
『まぁまぁそんな事で気負いしないで』
「それ椿鬼にも言われた…」
袖で顔をうずめ娘伯は呟く。
旧来の友はこれまでに無い危機を感じて声を改める。
『もしかしたら今の姐さんは変化の時じゃないすかね?』
「……へんか?」
『妖怪とは不変な者…長く生きる俺っち達は時代に流されても本質は変わらないっす』
やっと顔を上げてくれた娘伯にチョウは言葉を続ける。
『でも人間の生涯は短く儚い…そして時代の流れはいつも激しい…だから何処かで変化し適応しないと生き残れないっす』
「なら…私はどうすれば…」
くよくよな顔にチョウがいつものように舐める。
『先ずは住む場所を変えてみるっす!
そこで新たな自分に適応するっす!』
アドバイスは吉か凶か、
どちらにしても娘伯の中で何かが変わった気がする。
「…ありがとう…チョウ」
『姐さんの事はいつでも応援してるっすよ』
最後にぎゅっと抱きしめ娘伯は蔵を後にする。
「…娘伯や」
境内で元斎が待っていた。
心配してるのだろうが気に留めず娘伯は社務所へ戻ろうとする。
「皆は帰らせたぞ…今夜は夕飯を済ませて早く寝よう」
「……ん」
それから娘伯は元斎と一言も話さず就寝した……。




