人として、巫女として (2)
迂闊と言うより他にない。
「青井…風花…どこ…」
迷子になった仔犬のように娘伯は呟く。
功を焦った娘伯は青井達より先行し逸れ迷子になった。
運の悪い事に青井達に託して妖怪を探る御札も手元に無い。
都会の裏道で娘伯はただ一人彷徨っている。
「帰るわけには…」
不安が募る中、大通りの反対側で一際大きな人影を見かける。
「あれは……山鬼!」
人々を突き飛ばしながら山鬼は裏道へ入っていく。
それを追いかける青井も見つけた。
回り込もうと娘伯は急いで駆け出す。
大通りの反対側へはまるで風が通り過ぎるようにひとっ飛びで到達する。
「多分こっち…」
人目も気にせず走る。
山鬼とは別の道へ進入し障害物も難なく飛び越える。
十字路を曲がった先で再び山鬼を捉えた。
「娘伯さん!?」
思わぬ乱入に追っている青井も驚く。
「また新手か!」
追い詰められた山鬼は止まるはずも無く娘伯へ迫る。
「逃がさない…!」
ついに懐から小刀を構える。
山鬼の胴を狙い横一閃を放つ娘伯。
「ぬお!?」
それより速く山鬼は娘伯を飛び越え霊刀を避ける。
その先に仕掛けていた罠すらも。
「しまった!」
隠れていた風花が飛び出す。
着地した山鬼はビルを殴り瓦礫の雨を降らせる。
「ちょ……まずい…!」
眼前に迫る脅威に風花は怯んでしまう。
しかし娘伯が風花を抱え瓦礫の雨から逃れようと飛び出した。
「風花!娘伯さん!」
山になった瓦礫を呆然と見つめる青井。
「私はだいじょーぶ!でも…」
向こう側から風花の声がし一時は安堵のため息をする青井。
消えかけた言葉にやはり何か問題が起きたのだと再び焦る。
「娘伯さん…足…!」
瓦礫に挟まれ娘伯の足から多量の血が流れていた。
我慢をしてるつもりだろうが娘伯は歯を食いしばり痛みを堪えている。
「へいき…だから…っ!」
無理に瓦礫から出ようとし大きな痛みが娘伯を襲う。
「娘伯さん…今瓦礫を退けますから!」
青井も合流して2人は邪魔する破片を退かしていく。
しかしぐらりと山が傾き瓦礫が崩れ出した。
危険を覚悟した3人に思わぬ救いの手が現れる。
大きな衝撃で迫る瓦礫が吹き飛んだのだ。
「追いかけっこを見つけて来てみれば…何があったんじゃ?」
「椿鬼さん!」
放たれた拳からは煙が上がり満面の笑みで娘伯を見つめる。
「無様じゃのう?そんな事では妖滅巫女の名が泣くぞ」
「っ…」
反論も出来ず娘伯は悔しく歯ぎしりした。
「ほれ神社へ連れてくからお姫様抱っこしてやるぞ!」
「そんなのいいから…やめ…っ!」
無理やり娘伯の腕を引いてそのまま椿鬼はお姫様抱っこする。
子供が大人を抱えるなど奇妙な光景だ。
「椿鬼さんお手柔らかに…」
「ほう…思ったより軽いのう」
帰るまでの道中、娘伯は羞恥心で赤く染まっていた……。




