【9】 人として、巫女として
娘伯はその不調を言葉で表す事が出来なかった。
「青井!そっちに妖怪行くよ!」
夜の都会で携帯を片手に風花は走る。
それに合わせると娘伯は結局韋駄天の足を活かす事が出来ない。
「すぐ倒せばいいのに…」
娘伯一人ならばそれは可能だ。
しかし妖滅巫女の見習いとなった2人を鍛えるには実戦こそ近道と妖滅連合は決断した。
『今回も娘伯様はお2人の補佐をお願い致します』
妖滅連合の遣いにそう言われて3回目だろうか。
同じ妖怪、牛のような角を生やす山鬼は今週で3度都会を襲撃した。
最初こそ狼狽えて手を出せなかった青井と風花も、
慣れて罠の場所へ誘導できるような立ち回りを出来るようになっている。
山鬼が人気の無い公園へ逃げ込む。
「青井!」
「今!」
地面の御札から電撃を放ち山鬼を足止めする。
同時に青井が霊的空気銃を6発撃ち込み追い詰める。
「はあぁ!」
電撃が収まると同時に追ってた風花が大幣を振り下ろす。
頭部を直撃し山鬼は声を漏らし地へ伏した。
「はぁ…お疲れさま」
砂へ消えた山鬼を確認し娘伯は一応握っていた小刀を懐へ納める。
今日も何もする事が無かったと憂ている様子。
「お疲れさまです!」
「どうぞ娘伯さんイチゴオレです」
只働きで差し入れを貰うのは癪だが少し味に慣れたイチゴオレを飲み干す娘伯。
和気藹々と話す2人に娘伯は距離感を感じてしまう。
「私の役割って……」
小さく溢れた言葉は誰にも聞こえなかった……。
翌朝、清天神社にまたもや依頼が舞い込む。
『どうやらまた山鬼が都会へ侵入したようです』
妖滅連合の遣いはつまらなそうに報告する。
既に何かを察してるのか仮面の表情は上の空だ。
「何か気になるなら話した方がいいぞ」
元斎は顎に指つく遣いに警告する。
『どうもおかしいですね…普通なら山鬼は名の通り山に住む者
それが断続的に都会へ現れるとは…』
一週間に4度の襲撃。
妖怪にも何か事情があるのだろうが娘伯には見過ごす程のゆとりは無い。
それは隣で話を聞く青井と風花も同じだ。
「何度来ようとこちらは準備を進めて妖怪を滅するまでだ」
『……そうですね…では今回も青井様と風花様に退治をお願い致します』
「わ…わかりました」
緊張の面持ちで青井が返事する。
対して風花はなんとも余裕な雰囲気だ。
「今回もパパッとやっちゃいますよ!ねっ娘伯さん!」
「ぇ?…そ…そうね」
一瞬戯けた表情を晒した娘伯に元斎は心配した。
「そろそろ娘伯との連携も考えてみてはどうかな?」
「こ…娘伯さんと?」
「私達が足引っ張らないかなぁ」
これまで一人で戦ってきた娘伯に新米の2人が追いつけるか自信は無い。
「大丈夫…青井と風花を間近で見てきたのは私
2人は確実に腕を上げてるからそんなに気張らないで」
励ましの言葉に青井と風花は元気よく返事する。
山鬼が都会に現れたのはその日の夜だった……。




