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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
それから2年……
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新世代の巫女 (6)

「改めて自己紹介を…俺は道我…見ての通りの妖怪ぬらりひょんだ」

古びた和服を羽織り道我はそう挨拶した。

「妖滅巫女の美剣…この場の指揮は私が務めている」

一方の妖滅巫女は皆渋い表情をしている。

この妖怪が何を企んでいるか、

そんな疑念を瞳に宿し睨みつけた。


「他の紹介はいいよ…頼みは一つ俺の妻を殺してくれ」

要領の得ない懇願に疑いは一層深くなる。

「お前どういうつもりだ!?」

「牙谷…話は最後まで聞く」

噛みつきそうな牙谷を真央が必死で押さえつける。


「君らも相手したと思うがさっきの妖怪…衣蛸のキヌは俺の妻でね…」

元々内気だった彼女は道我と出会うまでずっと地下で暮らしていた。

見かねた道我はキヌと契りを結び共に生きる事を望んだ。

「それからなんやかんやウェンフーに従った…だけど彼奴は逝って妖怪達は都会に解き放たれた」


この二年間の出来事は妖滅巫女が一番理解している。

「俺は地上が落ち着いたら何処か遠くへ逃げようとキヌに誓ったが…」

ウェンフーが死ぬと鎖を解かれたキヌは人間を排除する事を選んだ。

自身に施した毒霧は妖力を交え只の治療では治らない力に変貌した。


「風花殿の受けた毒が治癒札で消えないのも奴のせいか」

「キヌを殺せば妖力で維持している毒も消える…でも毒霧はキヌの周辺に充満している」

人間である以上、妖滅巫女では手出しできない。

「一つだけ毒を物ともしない存在がいる…君らもよく知ってる……黒巫女だ」


それをよく知る者…青井はうなじに冷たい感触が伝わった。

二年前に姿を消した黒巫女は若い元斎が出会ったギンであり、

その正体は時を渡ってきた娘伯だ。

「黒巫女…娘伯さんは今どこに居るんですか!」

激昂し青井が道我の襟を掴む。


思わぬ豹変に牙谷と真央が青井を引き剥がした。

乱れた和服を正して道我は話を続ける。

「まぁそう慌てるなって…黒巫女は俺の研究室で眠ってる」

「ならば彼女を起こし事を収めればいいだろう…わざわざ私達に頼らなくてもいい筈だ」

「問題はそこ…今の黒巫女は精神が不安定で俺の言う事は聞いちゃくれない」

ならばと道我は旧友に頼った訳だ。


「君らが説得してくれれば都会は守れるし娘伯だっけか…彼女も此処へ帰ってくる…良い事尽くしだと思うけど?」

挑発とも言える道我の言葉に青井は歯を食いしばる。

しかし懐に収めていた小刀を手にすると気を落ち着かせ道我に一礼した。

「お願いします…娘伯さんの所へ案内してください」


「青井殿…ならば私も同行する…此奴(こいつ)を信用した訳ではないからな」

青井の想いを察してか美剣も道我に頼み込む。

「黒巫女を何とかしてくれるなら誰でもいいさ」

早速とばかりに道我は宿舎の玄関を出て行く。


「美剣様…」

子犬のように瞳を潤ませ扇木は美剣の袖を引く。

「心配するな…皆は風花殿の看護を頼む」

「先輩に先立たれたら寝覚めも悪いか…」

真央も不服混じりにため息をこぼす。

しかし牙谷は青井をじっと見つめていた。


「おい!」「え…わ!?」

"銃剣付短機関霊銃"を脇に収めたホルスターごと青井へ投げ渡す牙谷。

「手ぶらじゃ危ないだろ!」

「ぁ…ありがとう牙谷(がや)さん…!」

「さ…さんは要らないからな!」

ホルスターを装着し予備の弾薬も十分に持つ。


『くれぐれもお気をつけて』

遣いはそれだけ言い青井と美剣に会釈する。

「はい…必ず娘伯さんを連れて戻ってきます!」

「行こう…青井殿」

武具を腰に付け美剣が宿舎を出て青井も続く。

道我は鳥居の前で待っていた。


「焦らずゆっくり行こうか」

「時間が惜しい…さっさと案内しろ」

眼光だけで斬られそうな美剣の圧に対し道我はあくまでマイペースに歩くつもりだ。

「俺とキヌの馴れ初めとか話す事はいっぱいあるんだけどなぁ」

「黙れ」「あまり怒らないでください美剣さん…」


妖怪のアジトは地下に存在しその入り口は都会の中心部から僅かに離れた廃屋にある。

人気は無いのか周りの建物も明かりは点いていない。

切れかかった街灯を頼りに道を進むと道我は一つの廃屋前で立ち止まる。

「此処が入り口」


いかにもゴミ屋敷と言った外観だが中に入るとすぐに地下へ続く階段があった。

「この先か…中の様子はどうなっている?」

「さっき此処から出たばっかりだけど妖怪達は正気を失っているよ」

殺気に満ちた空気が階段の奥から漂う。


「準備はいいか青井殿」

「勿論です」

それぞれの武具を構え道我を先頭に一行は階段を降りていく。

非常灯だけが道筋を照らしやがて長い階段が終わり狭い通路が現れた。

「……もっと早く黒巫女の正体を知るべきだったのかもしれない」

道我は歩きながらそんな事を口にする。


「それは私達も同じです…気付く機会は何度もあったのに…」

「彼女は時折り一人にしないでって嘆いてた…記憶を失ってしまったからと言うわけでは無いみたいだけど」

娘伯は勝一を失った時に何を思っていたのだろう。

悔いは結局残り記憶を失くしても勝一を求めてしまったのか。


青井はクロと勝一が僅かながら共に過ごしていた事を話す。

「あぁそれで…彼女は彼奴に惚れ込んでたのか…」

道我は共感を得て全て納得する。

「…昔話をする暇は無くなったようだ」

美剣が真っ先に気付き武具を構える。


見にくい通路の先に赤い瞳が揺らめく。

正気を失くした妖怪の端くれはゆっくりと一行へ迫る。

「強行突破する…青井殿は後ろを頼む!」

「はい!」

美剣が先陣を切り"霊力一体型剣銃"を妖怪めがけて振り下ろす。

抵抗も無く縦に両断された骸が地に落ちる。


「うわエグいねぇ」

「案内に専念しろ妖怪!」

通路の右や左から呻き声が響く。

その全てを相手するのは無駄と察して、

美剣は最低限の道が出来るだけの妖怪を屠っていく。

後方から来る者には青井が"銃剣付短機関霊銃"で応戦、

列を成して一行は黒巫女のいる研究室まで突破した。


「ロックを掛けた…これでこの部屋は安全だよ」

道我が出入り口のパネルを操作すると重々しい音と共に扉は閉ざされる。

室内は幾つかのコンピュータや実験機器、

そして人間が収まる程のカプセルが鎮座している。

殆どが割れているか空の状態になっているが、

唯一残された稼働中のカプセル内に"彼女"は眠っていた。


「これが君達の求めている者だ」

「……娘伯さん」

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