表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巫女乃禄  作者: 若猫老狐
それから2年……
175/182

新世代の巫女 (4)

その夜、妖怪出現の報で広間に妖滅巫女が集合した。

「出現地点は四ヶ所…どれも小規模だが距離が離れている」

卓に広げられた都会の地図には特殊な術が施されており、

御札を現地に貼るよりも精度の高い探査が可能になっている。

美剣は四つに散らばった出現地点を指差し策を伝える。


「私と扇木が東の二つ…牙谷(がや)と真央で西の二つを対処しよう」

「承知しました…!」

「やってやろうや!」

「前に出すぎないでね牙谷…」

作戦が決まり一行は広間を出ようとする。


少し心配そうな表情の風花と青井に美剣は足を止めた。

「大丈夫です…御二方の手は煩わせません」

「出来れば加勢もしたいけどね…」

「足引っ張るだけだっ…てぐ!」

牙谷の愚痴を真央が塞ぐ。

「行って参りますね…」

扇木の会釈を最後に選抜隊が出陣した……。



妖怪出現から10分が過ぎ美剣班と牙谷班がそれぞれ会敵する。

数は五つほどでいずれも人型、

本来ならば選抜隊の敵ではない。

「……なにかおかしい」

青井はリアルタイムで探査される地図を凝視する。


「いつもと変わらないんじゃない?」

しかし妖怪と巫女の地点は少しずつ地図から遠ざかっていく。

まるで妖怪が囮をしてるよう。

「まさか何か企んで……あ!?」

新たに妖怪の出現地点が増えた。

東西で開かれたちょうど中間の地点だ。


「ゆっくりこっちに向かってる…」

「多分皆は気付いてない…私達でなんとかしよう!」

風花は踵を返し薙刀を取る。

勢いよく宿舎を出ようとする彼女を青井が引き止めた。

「…今の私達には霊力が残ってないんだよ」

「それでもやるしかない…二人で戦えばなんとかなる!」


その自信はどこからと戸惑いつつも元気を見せる風花に青井も勇気づけられる。

「分かった…無茶はしないで時間稼ぎに徹する」

「よし行こう!」

青井も強弓と矢を持ち風花の後に続く。

満月が都会を照らす夜の事だった……。



五つ目の地点から現れた妖怪はたった一匹。

大通りは避難する人間で溢れ車道には乗り捨てられた車が幾つもある。

「見つけた!」

人混みをかき分け静けさが訪れた車道の中心にそれは居た。

「なぁに?私の邪魔をするつもり?」


青井と風花は半身が蛸の妖怪と対峙する。

「青井…あれは知ってる妖怪?」

「知らない…でも蛸の妖怪なのは確か」

胴と頭は人間の女と変わらないが腕と下半身は吸盤の付いた触手が不気味に蠢いている。

ちょうど八本の手足を持つその正体は"衣蛸"、

本来なら海に生息すると言われている妖怪だ。


「誰も私達の行く手を阻む事は出来ないわ…積年の恨みを…思い知りなさい!」

衣蛸は八本の脚をバネに大きく跳躍、

真上から青井と風花に襲いかかる。

「まだ仲間が居るの!?」

「今は目の前の妖怪に集中しよ!」


左右に分かれて衣蛸の踏み潰しを回避した。

体勢を整えると同時に青井が弓矢を射る。

「そんな物で!」

しなやかに丸めた脚で矢は弾かれてしまう。

「やっぱり…霊力が込もってない…!」

只の一矢に青井は愚痴る。


討てないと判断してか青井は距離を取り矢の温存を図る。

「この!」

風花が果敢にも薙刀を振り下ろす。

またしても衣蛸のぬめった脚で受け流されてしまう。

「風花!私達じゃ倒せない!美剣さん達が来るまで時間稼ぎを…」

「私は…まだ戦える!」


しかし風花は退こうとしない。

見かねて青井が矢を放ち援護するが有効打にすらならない。

「なぁにそれ?遊んでるつもり?」

衣蛸は涼しい顔一つして風花を叩き飛ばす。

受け身が遅れ風花は近くの自動車に激突した。


「あぐ…がは!」

吐血を拭きなんとか立ち上がる。

揺らいだ視界の中で衣蛸を捉えた。

「私はぁ!!」

渾身の力で薙刀を振り下ろす。

微々たる霊力が宿り衣蛸の脚を一つ斬り落とす。


「あらやるわね…でも」

衣蛸がほくそ笑むと断面から紫の霧が噴き出す。

「な…うぐ!?」「風花!」

僅かに吸い込み後ずさる風花。

直後、身体の奥から激痛が走り薙刀を手放してしまう。

倒れかかった風花を青井が肩で支える。


「まさか…毒…!?」

妖怪自身が毒を発する前例の無い事態に青井は困惑する。

風花が戦えない以上此処に留まるのは危険だ。

「逃がしはしないわ」

衣蛸が毒霧を噴出しながら青井達ににじり寄る。


「青井…ごめん…」

「弱音を吐かない!」

踵を返し青井は風花を連れ走り出そうとする。

「ふふ…忘れ物…よ!」

落ちていた薙刀を投擲してきた。

避ける暇も無く切っ先が青井の腱を裂く。


「うっ…!」

地に倒れるが青井は懐から霊的空気銃を構える。

振り返ると同時に衣蛸へ連射した。

球は全て衣蛸の脚に阻まれ爆ぜる。

「悪あがきね…打つ手はもう無いでしょう?」

何も出来ない自分の無力さに二人は歯軋りする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ