【39】新世代の巫女
『追い込んだ!一気に仕留めろ!』
式神越しに凛々しい声が発せられる。
それに応えたのは二人の巫女だ。
夜の都会で獲物となった妖怪十数匹が大通りへと誘い込まれ視線を泳がす。
「ひぃやっ!」
袖と袴を短くした赤髪の巫女は八重歯を見せつけて妖怪へ迫る。
妖怪は狩られる事を知らず咆哮する。
巫女が手にするのは武具とは言い難い物、
銃身に沿って小刀が装着された"銃剣付短機関霊銃"だ。
両手に構えて妖怪へ掃射する。
荒々しく発せられた霊力の込められた弾丸が妖怪を蜂の巣にする。
「味気無いぜぇ妖怪!」
怯んだ妖怪の一匹へ銃剣を振り下ろす。
腕を抉られ悲鳴を上げるとその首を横一閃で捌き落とす。
別の妖怪は穴だらけの腕で巫女へ殴りかかる。
しかし腕を吹き飛ばしたのは雷鳴のような発砲音。
「牙谷……前に出すぎ…」
向かいのビルの屋上から式神へ愚痴りを送りつける。
前髪で右目が隠れている妖滅巫女が構えていたのは"狙撃霊銃"。
霊力の込められた弾丸を撃ち出すそれにはスコープが付いていない。
上部に固定されたアイアンサイトのみで彼女は照準を行なっている。
『こーゆー時だけぐちぐちうるさいんだよ真央!黙って撃て!』
「はいはい…」
真央は気怠い返事をするが狙撃に迷いは無い。
地上で荒々しく舞う牙谷の隙間を縫うように数発の弾丸は妖怪を射抜いていく。
たった二人で群れの半分程を掃討する。
残った数匹が元来た裏路地へ転進するが何者かが阻んだ。
「お願いです…抵抗はやめてください…」
一見気弱そうな巫女はその場に不釣り合いな和傘を持っていた。
舐められたと思い妖怪はそれへ殴りかかる。
「ひぃ!」
霊力で編み込まれた"傘霊扇"は開くと同時に妖怪の拳を弾き返す。
「だから…抵抗しないで!」
和傘が巨大な扇子に変形し切っ先が妖怪の身体を斬り刻む。
思わぬ反撃に脇の二匹は後退りしてしまう。
「扇木よくやった…後は任せろ!」
扇木の背から最初の凛々しい声が響く。
闇から見せた姿は跳躍し妖怪の頭上を捉える。
「美剣様!」
「はあぁ!」
武具である"霊力一体型剣銃"を振り下ろし妖怪の一匹を両断する。
さらに残る一匹の頭に刀身を突き刺すと、
柄の引き金を引き根本に装備された霊銃を放つ。
眉間に撃たれた妖怪は倒れながら砂へ変わった……。
絶望も希望も無くなったこの地。
二年の時を経ても都会は辛うじて健在であった。
僅か数分で十を超える妖怪を滅した彼女らは、
関西妖滅連合から派遣された妖滅巫女の部隊である。
それぞれ新たに開発された武具を手にするのは、
「皆お疲れ様…!」
退魔の家系を継ぐ者…美剣、
「美剣様…麗しいです!」
試験にはギリギリ合格した落ちこぼれ…扇木、
「おっつー真央!飯食いに行こうぜ!」
関西巫女顔負けの野生児…牙谷、
「やだよ…太ったらどうすんの…」
気怠げ天才狙撃手…真央。
以上の四名が都会での妖怪退治を率先している。
討滅を終えて隊を率いる美剣の携帯に着信が掛かる。
『もしもし?美剣さん?』
電話の主はかつて都会を守護していた妖滅巫女…青井だ。
「はい…反応のあった妖怪は全て滅しました…これから帰還します」
『あまり寄り道しないように戻ってきてね』
通話を切り振り返ると共に戦った仲間はわいわいと騒いでいた。
選抜隊として行動を共にしたのは1年前だが、
相変わらず戦闘以外は年相応の娘と言った所だ。
一つ歳上の美剣はわざとらしく咳払いし声を上げる。
「帰還する…無駄話は後だ」
「だってよ!おら行くぞ!」
牙谷が真央を抱えて歩き出す。
元気が有り余るのかその足並みが衰える事は無い。
「着いたら起こしてね…くー」
言い切る前に真央は牙谷の背中で寝てしまう。
「あの……美剣様…」
「どうした扇木?」
美剣の隣を申し訳なさそうについてくる扇木。
「私達…いつまで此処で戦えばいいんでしょう…」
妖怪は滅してもまた現れる。
長きに渡る戦いに扇木は嫌気が差していた。
「人が居る限り妖怪との戦いは無くならない」
美剣は淡々と言葉を告げる。
自身の家系が物語るように古くから続く戦いに終わりは無いのだ。
「…故郷が恋しいか」
「ぃ…いえいえそんなつもりじゃ…」
「たまには連絡するといい…どんな扱いを受けても家族は恋しくなるものだ」
牙谷がいつの間にか都会の通りを突っ走っていたので美剣と扇木は慌てて追いかける。
野性的な感覚で動いているのか牙谷の行動にはいつも振り回されている。
しかしそれを見透かし同調できるのは真央だけだ。
ただ面倒臭がり牙谷に丸投げしているのかと思ったら大間違いである。
「牙谷…そろそろ真央を下ろしたらどうだ?」
意外にも牙谷の隣を並ぶのは呆気ない。
「ま…まだまだぁ…!」
体重はほぼ同等であり鍛えてもそれほど変わらない華奢な身体だ。
結局意地になって牙谷は背負ったまま清天神社へ帰還した……。




