迫りくる絶望 (4)
「どうして…なんでそんな事言うの!」
「……ごめんね」
クリュウ達が根城にしている稲荷の社。
呼ばれた青井と風花は友の言葉を疑う他なかった。
「手出し無用って…ハル達でなんとかなる相手なの?」
既に支度を整えたハルとヒセは最後の説得に手間取っている。
クリュウがウェンフーの元へ先立ち、
双子の狐もまた彼女の加勢に向かおうとしてた。
妖滅巫女である友達がもっと素直ならばもっと早くに出発出来ただろう。
「分からない…でも僕らだけでやるしかないんだ」
「なら尚更私達の手助けが必要でしょ!」
風花の方は完全に苛立っている。
対して青井は覚悟を決めてるのか冷静だ。
「死ぬ気で挑むんだよね?」
青井の言葉で風花は一転し黙ってしまった。
「五体満足で生き残れるかも分からないから…だからせめて友達にははっきり別れを言っておこうって」
呼んだ理由はそれだ。
結末の読めない"私闘"に友を巻き込む訳にはいかないのだ。
「別れがいつか来るのは分かってる…私達は人間でハル達は妖怪だもの」
「今生の別れにはしたくない…」
「大丈夫だよ…ハル」
泣きそうになるハルを青井はそっと抱きしめた。
「風花…最初は印象最悪だったけど」
「な…今更水臭いなぁ」
「でも風花達と友達になれて良かった」
「ぁ……うん!私も!」
照れ臭くなりヒセも頬を赤く染める。
「最後…いや!今の別れはせめて笑顔でね!」
「うんそうだね風花…ありがとう」
まだ涙は治らないがハルはくしゃりと笑顔を向ける。
「またね…ハル」
「頑張ってね!」
それ以上の言葉は要らない。
「青井…またね」
「風花…じゃあね」
青井と風花の想いも胸にハルとヒセは駆け出す。
見送る青井と風花には僅かな哀愁が残った。
「クリュウさん達ならきっと大丈夫…」
「私達よりも長い間戦って来たんだよ!ヘマなんてしないよ!」
そう言う風花だがやはり不安は抱いているようだ。
彼女達の元に珍しい声が響く。
『クリュウ様も…行ってしまうのですね』
青井達の後ろからいつの間にか妖滅連合の遣いが立っていた。
スーツ姿から狐面を外すと山伏の天狗姿へ正体を晒す。
「あ…えっと…九之助さんでしたよね」
「ちゃんと名前を覚えてくれてありがたいです」
遣いとして清天神社では接しているが、
烏天狗九之助として話す事は殆どない。
「ハルもヒセも始めは何も分からない赤ん坊のようなものでした」
クリュウが九尾の力を失い新たに手に入れたのがハルとヒセだった。
「力は無くとも彼女への忠義は一人前でしたよ…今も昔も変わらず」
その一途さ故か他の妖怪や人間ともあまり接さず距離を置くばかり。
師と敬う九之助にすら必要最低限の応対しかしてくれない。
「学校でも他の生徒と話してなかったね」
「二人が気を許してくれるのは貴方達だけでしょうね」
ハルとヒセにとって友達と言う関係は家族に近い意味を持っていた。
青井と風花が寂しい気持ちであるように、
二人もまたそんな想いを抱いていた。
「二人を友と呼んでくれた事…大いに感謝します」
「いやいやそんな照れ臭いですよ!」
九之助は会釈を済ませると翼を広げた。
「私も…彼女達に責務を負わせた者として見届けなくてはなりません」
「そう…ですか…九之助さんもお気をつけて」
「はい…これからも妖滅連合の遣いとしてよろしくお願いします」
言葉を最後に九之助は清天神社の方角へ飛び立つ。
残された青井と風花は静寂が訪れるのを待つしかなかった……。




