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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
妖怪の末路
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黒巫女 (2)

「…何のつもりだ」

ウェンフーの加勢で戦況は傾きかけるが、

黒刃は彼へと刃を向けられた。

明らかな憎悪の表情で黒刃はウェンフーへ太刀を振り下ろしたのだ。

しかしその一手はあっさりと受け止められる。


「なん…で…どうして黒刃がウェンフーを…」

倒れる青井と風花は疑問に眉を歪ませる。

その隙に娘伯は二人の元へ駆け寄った。

「治癒札は使うけど…無理に動かないで」

「ありがと…ございます…娘伯さん」

深傷を癒すには時間が必要だ。

依然戦えるのは娘伯だけだが状況は混沌としている。


「ウェンフー…お前を……殺す!」

「ふふ…なるほどその眼差し…全て思い出したと言う訳か」

睨みつけられてもウェンフーは動じない。

それどころか黒刃の頭を地へ叩きつけ踏み潰す。

「ならば言えるんだろう…お前の本当の名を!」

「それ…は…ぅぐ!」


黒刃は動揺している。

今この場で明かす事では無いのか必死に歯を食いしばる。

「お前は俺を殺しに来た…どこからともなくやってきた…奴からはその名を呼ばれてた筈だろう…ギンとな」

蹴り飛ばされる黒刃だが受けた傷は黒いモヤに包まれ治っていく。


「ギンって…元斎さんが昔に出会った…」

クロが初めて来た頃に明かされた元斎の昔話。

それが嘘で無かった事がウェンフーの口から明かされる。

「こいつこそが俺から九尾を奪った張本人さ!こいつさえ居なければ…俺はとっくにこの地を征していた!」

大いなる野望を前に黒刃は…ギンは最後の力でウェンフーの尻尾を斬った。


「叶わぬ事を悟った俺はこいつを殺し…いや殺し損ねたんだったな…」

不可思議な再生能力を目にしウェンフーはギンを手駒として利用しようと目論んだ。

彼女の身体を改造し生きる屍として蘇生させる事には成功していた。

それでも黒巫女となったギンは長い眠りにつき意識を覚醒させなかった。


「こいつが覚醒したのは白巫女…お前が八百万の力を発揮した時だ」

「ツクヨミが…」

「さて何の因果だろうなぁ…白と黒…同じ姿の巫女が覚醒しそして刃を交える…」

ウェンフーは黒刃と娘伯を狙い雷を放つ。

娘伯は受け流すが黒刃は顔に受け皮膚を焦がしながら倒れる。


「こんな面白い事が二度と起こるか?」

「ウェンフー…必ず…殺す…」

「全く…さっきまでウェンフー様ウェンフー様と言ってたお前がそこまで豹変するとはな」

何度も起き上がる黒刃にウェンフーは嫌気が差す。

互いの言動に理解できず娘伯は一歩も動けない。


「今殺すべきは俺では無いだろう?」

ウェンフーは黒刃の頭を掴み目と鼻へ寄せる。

今にも目玉を抉りそうな形相で黒刃は睨み返す。

「お前は何の為に戦っていた?」

「私は…勝一との未来を…」

「あぁそうだ…お前を好いてた勝一は死んだ…誰に殺された?」

「妖滅…巫女…」


その言葉は暗示となり黒刃の瞳を見開く。

思惑通りに事が運びウェンフーは笑む。

「そうだ…妖滅巫女がお前の未来を潰した…ならば奴らの未来を潰すのが勝一への仇討ちになるんじゃないか?」

「ちが…私は…」

「悔やむならば…奴らを殺して全て晴らせ」

「うあああぁあぁぁ!!」


黒刃の精神は耐えられなくなりウェンフーを引き剥がすと杜へ逃げてしまう。

「惜しいな…後一歩だったが…」

姿の消えた黒刃を一瞥するとウェンフーは娘伯へ向き直す。

「っ……」

「次は奴が従うか解らないからな…一つ助言をしてやろう」


「妖怪に聞く耳は無い」

太刀を構える娘伯はそれでも掛かろうとはしない。

動けば青井と風花を守れないからだ。

「黒巫女には唯一の弱点がある…左胸…心臓の位置だ…白巫女ならよく分かるだろう」


「……」

「俺にとって奴はまだ必要だからな…精々頑張るといい」

地面に雷を放つ隙にウェンフーは何処かへ消えた。

僅かな間を置いて娘伯は太刀を鞘へ収める。

「一先ず…安全は確保できた…だいじょぶ?」


「生きてるだけ儲け物…ですかね」

「娘伯さんが来てくれなかったら…」

「でも二人が頑張ってくれたから私は此処へ来れた…ありがとう」

倒れる青井と風花を担ぎ娘伯は社務所へ入る。

境内に描かれた巨大な陣に誰も気付く事は無かった。

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