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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
妖怪の末路
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四獣霊威 (5)

道端に倒れた者に気付き巫女は慌てて駆け寄る。

「…勝一!?」

「ぁ……か?やっと…面と向かって話せる…な」

厄狼の姿から勝一は人間の姿へ戻り半身は灰となっている。

それが妖怪の今際であると彼女は察した。


「どうして…こんな事…」

「少し意地になったかな…好きな人の為に道を踏み外して…末路はこれだ」

勝一はまじまじと見つめ彼女の頬に手を当てる。

既に肌の温もりは無い。

巫女もまた勝一の手を握り返す。


「いやだ……一人にしないで…」

「俺なんかの為に泣くなよ…美人が台無しだ」

意識をなんとか保ちながら勝一は言葉を続ける。

「死ぬ時って視界が朦朧とするって言うけど…全然違うな」

童のように泣きじゃくる彼女を勝一ははっきり捉えている。


「娘伯…お前は生きろ…」

「ぁ……あぁ…」

既に勝一は娘伯と黒刃の区別がつかないほど視えなくなっていた。

今目の前に居るのは黒巫女である。

「あとクロにも…俺が居なくても生きてほしいって伝えてくれ…」


「や…だ……しょう…いち…」

「最後の約束…守ってくれ」

抱きしめようとする黒刃だったが腕は空をすり抜け地べたへ倒れる。

骸の灰すら掴めぬままに泣き続ける。

その衝撃に黒刃は全ての記憶を覚醒させてしまった……。



「あれだ…結界の元…!」

石段を上り切り風花が指を差す。

境内の中心には結界を発する碑石が鎮座していた。

「あれを壊せば娘伯さんも此処に来れる!」

互いに息を切らしながらも青井と風花はゆっくり近寄り碑石の前へ立つ。


「一緒にやるよ…」

「「せーのっ!」」

二人で掲げた薙刀を振り下ろし碑石は真っ二つに割れる。

空を覆っていた虹色の膜が徐々に消えていった。

『結界が消えたぞ!』

『これで一先ずは安心だな』


「社務所から御札を持ってくる!」

「っ……待って…何か来る…」

鳥居の方から感じる殺気に青井と風花は臨戦態勢を取る。

ゆらりゆらりと糸に操られた動きのそれに目を見開いた。

「娘伯…さん?」

「でも流石に早過ぎる…」


結界の端から清天神社まではかなりの距離がある。

韋駄天を持ってしてもすぐ辿り着くのは不可能だ。

「わたしを…一人に…しないで…」

地獄より響く切ない声が境内を支配する。

黒い巫女装束に身を包み紅い太刀を引きずりながらそれは姿を晒した。


「四獣様!」

『下がっていろ!今度こそ奴を滅する!』

消耗した身で青井と風花は四獣を召喚する。

ゆっくり歩む黒刃の前に白虎が襲いかかる。

『この!』

左肩へ噛みつき牙が深く貫く。


「……」

しかし黒刃は微動だにしない。

『退け白虎!』

玄武が水の槍を黒刃へ浴びせる。

その全てが刺さっても尚彼女は痛みを感じていない。


『ならば』

『我らの力で!』

朱雀と青龍が同時に仕掛ける。

朱雀の灼熱と青龍の蒼炎が黒刃を包み込んだ。

「やった…!」

風花が勝利の予感を漏らす。

「いや…まだ!」


「どうして……どうして…」

黒刃は太刀の一振りで炎を掻き消してしまう。

『一斉に行くぞ!』

畳み掛けるように黒刃へ迫る。

「……っ!」

横一閃で放たれた斬撃で四獣は消し飛ばされた。

「前よりも強くなってる!?」


「当たり前…私にはマトの力と勝一の思いが宿ってる…」

二人に動揺が走る。

構えるより速く黒刃は風花の間合いに飛び込んだ。

「ぅ…がぁ!」「風花!?」

鋭い蹴りで風花が拝殿の方へ転がり倒れる。


「一思いには殺さない…勝一を奪った貴方達を簡単に地獄へは行かせない」

黒刃は青井を睨みつけ太刀を振り上げる。

咄嗟に射る矢は黒刃の右肩へ命中する。

「そんな物…通用しない…」

防護札を取り投げつける青井。

しかし黒刃の一太刀はそれをあっさり相殺する。


「うおおおぉぉ!!」

飛び出した風花が黒刃へ薙刀を振り下ろす。

身体で受け止めた黒刃は再生を用いて刀身を固定した。

「っ…抜けない!?」

「貴方は何も考えず真っ直ぐで…」

さらに薙刀を掴み自らへ引き寄せる。

「痛みを知らない」

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