四獣霊威 (4)
「クロと共ニ生きル未来ヲ…叶エル為に!」
厄狼が飛びかかる。
頭から血を流しながらも風花は彼を睨みつけていた。
「この…分からず屋ー!!」
放った左手に玄武の力が宿り厄狼を弾き返す。
「何ダっ!?」
左腕を包み込む玄武の甲羅。
たくましい白毛に包まれ薙刀は三叉へ分かれている。
風花はまるで四獣を身に宿す姿へ変貌していた。
『四獣霊威…この土壇場で体得するか!』
風花の頭に白虎の声が響く。
「なんだっていい…勝一さんを止める力なら!」
『気を鎮めろ…勢いだけでは』
玄武が言い切るより速く四獣霊威を纏う風花は疾走する。
娘伯には劣るが厄狼の眼には捉えられない瞬足だ。
僅かに見えた影へ爪を振り下ろす厄狼。
しかし風花は既に後ろへ周り薙刀を構えていた。
「ッ…!」
防ぐ右腕に刃が突き刺さる。
引き抜き風花は容赦なく厄狼を蹴り飛ばす。
「もう終わりに…」
「マダ諦めル気は…ナイ!」
ゆらりと立ち上がる厄狼は腕を押さえながらも殺気を放っている。
「ダガ…俺ダケの力じゃあれニは勝てナイ…ドウする…」
再び風花が構える。
しかし背後から現れた小さな妖怪に気を取られ振り返る。
「鎌鼬!?」
「ミコ!カクゴ!」
振り下ろされた腕の鎌を避けるには遅過ぎる。
傷を受ける覚悟をした風花だが、
思わぬ妨害に体を押されその魔手から逃れる。
「オマエ…ナゼミコヲカバッタ!?」
「勝一さん!?」
鎌鼬の腕を掴み厄狼はニヤリと笑う。
「力ヲ…寄越セ…!」
「ナニイッテ…ギャ!」
厄狼は大きな一口で鎌鼬をガブリつく。
『こいつめ!妖力を吸収している!』
『本当の人でなしとなるか!』
四獣の言葉に風花は青ざめる。
「そんな…勝一さんが…妖怪に…」
「モウ…躊躇イは要ラナイだろ…!」
体毛が紫色に変化し爪は鉄のように肥大化する。
霊力による攻撃が有効になる以上に勝一はそれ以上のデメリットを抱えた。
『滅すれば奴は灰と消える…』
『それがどうした!妖怪を逃すな!』
「っ……」
もう元には戻れない、
ならばと風花は薙刀を持つ手が力む。
「来イ…妖滅巫女!」
「はああぁぁぁあっ!!」
互いの一撃で衝撃が走る。
殆ど同等の脚力で駆け抜ける二人。
振り下ろされる一閃はただ掠めるだけ。
「オ前達は…イツもこんな高揚感デ満たサレテたンダナ!」
厄狼は戦いの昂りを抑えられずにいる。
対照的に刃を避ける風花は後悔に呑まれかけていた。
「こんな事になるなら…こんな思いをするなら…妖滅巫女にならなければ良かった…!」
「違ウだろ…今目ノ前二居る者ハ妖怪…そしてオ前は妖滅巫女…」
薙刀を空振りした風花の隙を見逃さない。
「戦ウ理由はソレで十分ダろ!!」
「うがっ!」
厄狼に殴り飛ばされ風花は薙刀を手放す。
「く…っ!?」
『まずい!身体が限界だ!』
『今すぐ四獣霊威を解け!』
身体が引き裂かれるような痛みに風花は歯を食いしばる。
「仕舞イだ…!」
腕を高らかに上げ厄狼はトドメを掛ける。
しかし振り下ろされた腕は何かによって貫かれ宙を浮いた。
「風花!」
上空から青井の声が響く。
僅かに霊力を回復し込められた一矢が厄狼の腕を射抜いたのだ。
「ぅ…ガアァ!」
懐から大幣を取りありったけの霊力を以って厄狼の胸へ突き刺す。
「ぐガ!?ウぅ…ぐグ…ッ」
厄狼の吐血が風花に降り注ぐ。
それでも風花は決して手を緩めない。
「ごめんなさい…勝一さん…っ!」
一際霊力を強めた大幣は厄狼の胸を貫いた。
目を見開き敗北を悟った勝一はゆっくり背から倒れる。
「風花……大丈夫?」
朱雀に乗ってきた青井が地へ降り厄狼を一目する。
青井はマトとの決着をつけた後ほろあま庵へ行きそして此処へ赴いた。
「はハ……やっパり強イな二人は…」
いつもの軽口を零しながら厄狼はまぶたを閉じる。
「付ケ焼キ刃の力じゃ敵ワない…か…」
「勝一さん…」
厄狼は最後の力で清天神社へ続く石段を指差す。
「早ク…行け……サヨナラは言わナイぞ」
青井と風花は倒れる勝一に礼をする。
「…行こう…青井」「……うん」
それ以上は何も言わず青井は風花に続く。
四獣霊威を解いた直後、風花の身体に耐え難い激痛が走る。
「うぐ……ごふっ!」「風花!?」
倒れかかる風花を慌てて支える青井。
『とっくに限界は迎えていた筈…全く無茶をする』
玄武の呆れた声から察するに大事に至る傷ではないようだ。
「結界を壊したら治癒の御札を探そう」
「はは…心配かけてごめんね青井」
石段を上り切るまで二人は一度も振り返らなかった……。




