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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
妖怪の末路
150/182

古き者の決着 (5)

静寂に包まれ鬼は杯を傾ける。

纏った着物は胸元がはだけ至る所がボロボロになっている。

左手には盃、無い右手には空の酒瓶。

酒を呑みその味で夢を見ていない事を確認する。

彼女の隣には骸となった鬼が横たわっていた。


最早言葉も不要と椿鬼はまぶたを閉じる。

酒呑童子が酒を交わしている姿を脳裏に浮かべる。

別れの言葉は椿鬼にだけ聴こえた。

そして鬼は灰と消えた。

『またな…椿鬼…』


残された椿鬼の頬には涙が伝う。

しかし悔やむ別れを強いられた昔と違う。

口元を緩ませ最期を看取れた喜びだ。

「地獄で会おうぞ…酒呑」

ただそれだけ呟き椿鬼は意識を手放しかける。


「バケモノめ…」

業を煮やした声に椿鬼は視線を上げる。

隠れていたマトと厄狼が目の前に立っていた。

「それはお互い様じゃろう」

「だが虫の息を潰すのは容易い…そうだろ?」

椿鬼は淡く光るマトの手を見つめる。

瞳には殺意こそ無いが近寄り難い覇気を纏っていた。


「だめだよ…」

女性の声にマトの詠唱は止まる。

後ろには黒巫女が佇んでいる。

「どうしてだ黒刃!」

「何カ…思ウ心がアルのカ?」

ゆっくり歩み寄ると黒刃は椿鬼の前にしゃがむ。


「仲間になるつもりなど…」

「クロを一人にしないで」

黒刃が言った言葉を椿鬼は理解できなかった。

「せめて貴女は生きて」

「何を言うておる…」

問いを返すも黒刃は立ち去る。


「命拾いしたな」

黒巫女に従うようにマトも踵を返す。

厄狼は何か言いたげに椿鬼を見つめたままだ。

「今回ハ…お前ノ勝ちダ」

将棋の駒…王将を椿鬼へ投げ渡す厄狼。

「御主…まさか…!」

椿鬼が言うより早く厄狼は去ってしまう。


「っ…やれやれ…これでは楽に死ねんのう…」

ふと笑みがこぼれ今を生きる活力を得たのだろうか。

僅かな一滴を残す盃を持ったまま椿鬼は立ち上がる。

夜明けが彼女を導いていった……。



椿鬼が辿り着いた場所は清天神社の蔵。

ゆっくり開けて中に居る者に問う。

「…チョウ…おるか?」

『どうしたんすか姐さん…やけに朝早いっすね』

中央に置かれてた提灯から舌が生える。

椿鬼はチョウを片腕で抱えまじまじ見つめた。


「儂と旅に出てみぬか?」

『えぇ!?いきなりどうしちゃったんすか!?』

流石にチョウも驚く。

しかし普段見せない表情から何かを察する。

「都会暮らしに飽きてな…しかし一人で離れるには寂しいと思うて」

『それで道連れって訳ですかい…姐さんらしいっすね』


ふと笑むが背後からの気配に気付き椿鬼は振り返る。

娘伯が怒りと呆れを混じえた表情で立っていた。

「せめて私には一言あると思ってたのに」

「別れの言葉が欲しいのか?やれやれ…儂は居候じゃぞ」

娘伯は黙って残っていた酒瓶を渡す。

「一度は御主の酔った顔を見てみたかったのう」

「そんなの…また今度でいいでしょ」


お互い言いたい事はまだあったがそれだけだ。

椿鬼はチョウと酒を抱えると娘伯の横を通り過ぎる。

「気をつけてな」

『お世話になりましたっす…姐さん』

「椿鬼もチョウも元気でね」

椿鬼とチョウが去り寂れた蔵の戸を閉める。

娘伯の髪を揺らし一つの別れを告げた……。

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