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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
バイト巫女、参戦
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【8】雪の調べ

「はぁ……はぁ……」

吹き荒ぶ吹雪の中で防寒着に包まれた少女が歩く。

ある北の山で白い髪の少女ははっきりとした瞳で歩く。

右手には炎を宿し寒さをしのぐ御札、

左手には鞘に納めた小刀を握りしめ歩く。

目的の場所は曖昧なままただ歩く。

彼女の名は娘伯。

これはまだ娘伯が妖滅巫女と名乗る前の話……。


そもそも何故彼女が吹雪の山中を歩く事になったのか。

元斎との修行が一区切りを終え妖滅巫女の認定試験に臨んだからだ。

山の中に自生する雪見草を見つけ持ち帰る、

それが正式な妖滅巫女となれる試験の内容。

ただ草を採取するならこの試験は安い物だ。

しかし事の実態は夏にも関わらず異常気象とも言えるこの吹雪だ。

まるで動く毛玉のような娘伯の防寒着でも立ち止まれば身を凍らせる程。

失敗すれば命は無い、

故に小柄な体に似合わぬ大きな覚悟で娘伯はこの試験に挑んでいる。


山を歩き始めて数時間。

やがて娘伯は吹雪の中で一つの灯りを見つけた。

朧げなそれは近づくにつれてはっきりと幻で無い事を確信させる。

「こんな…所に……屋敷?」

震える手で御札が照らす物は確かに和風の屋敷だ。

「ごめん…ください」

藁にすがる思いで掠れた声を出す娘伯。

するとしばらくして入口の戸がガラリと開いた。

「…あら?お客なんて珍しいわね?」


現れたのは白い肌の女性。

はだけた着物から溢れそうな胸が男なら注視してしまうだろう。

「あ…あの…」

「外は寒いでしょう?ささ中に入って」

困惑する娘伯に女性は屋敷の中へ手招く。

「…お邪魔します」

頭巾を取り幼い顔と白く長い髪が露わになる。

案内されるまま娘伯は屋敷の奥へと踏み入った。


屋敷は奥へ進むほど妖しさを放っている。

床や障子はまるで雪を固めたように真っ白である。

そして外は吹雪であると言うのに屋敷の中は暖かい。

いつの間にか娘伯は防寒着も脱ぎ巫女装束で歩くほどだ。

「ここはね…私が小さい頃からコツコツ作ってきたの…凄いでしょう?」

女性の言葉に娘伯は黙って頷く。

「ふふ…お人形さんみたいに可愛らしいわね」

褒められてるのか馬鹿にされてるのか、

いずれにしても娘伯は警戒を解かない。


女性が襖の一つを開け広い部屋へ案内してくれた。

火の点いてない暖炉を挟み柔らかい座布団へ座る娘伯と女性。

「私はユキメ…ここで一人ひっそりと暮らしてるわ…貴女のお名前は?」

「…娘伯」

淡々と答える姿に愛嬌を感じたのかユキメは笑顔で上機嫌になった。

「そう娘伯ちゃん…可愛い名前ね」

無表情な娘伯だがくぅとお腹が鳴りユキメに空腹を知らせる。


「何か食べる物を用意するわね」

「大丈夫」

懐から干し肉と水筒を取り出しもぐもぐ食べ始めた娘伯。

「最近の子は不摂生ね」

「…お腹が満たせれば何でもいい」

小さな胃袋ならその程度でも満腹感を得るのだ。

必死に噛みしめる娘伯をユキメはただ見つめる。

ぐいっと水筒のお茶を飲んで娘伯はやっと一息ついた。

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